YAMAHA MT-09SP試乗レポート ハイパーネイキッドの優しい乗り味
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ザ・ハイパーネイキッド

グローバルに支持を得ているヤマハのMT-09。

2017年のEICMA(ミラノ国際モーターサイクルショー)では足回りを中心にグレードアップしたMT-09SPが発表となり、

2018年3月にはその日本仕様も発売となりました。

ヤマハ発動機HP上では単に「ロードスポーツ」というカテゴリーの中で紹介されているMT-09SP。

EU圏のヤマハHPでは「ハイパーネイキッド」というカテゴリーにラインナップされていているのをご存知でしたか?

参照元;Yamaha EU/Hyper Nakid

「ハイパーネイキッド」

MT-09SPのあの独特な雰囲気は、なんとなくその方がしっくりくるような気がして、MTシリーズをご紹介するとき、筆者はあえてこの表現を使っていました。

今回はMT-09SPを一週間お借りして、そのハイパーぶりを確かめていこうと思います。

機能美溢れる独創的な外観

まずは、独特な雰囲気を持つMT-09SPの外観をじっくりと見ていきましょう。

ライト・メーター周り

ハロゲン1灯だった初期型からLED4灯となり、グッと精悍さを増したヘッドライト周り。

どことなくそれはYZF-R1を想起させ、これまで以上にスポーティーなキャラクターであることを期待させます。

「ありがち」という言葉を排するような左右非対称なメーター配置もでユニーク。

SPでは専用に反転液晶パネルが採用されています。

タコメーターが4~8千回転あたりでカクっと角がついているのは、ちょうどそのあたりにパワーのおいしいところがあるから?

高速での加速中はこの角をちらちら見ているとシフトを入れやすいですね。

タンク・シート周り

カラーリングのシルバー部は、メタルのイメージを強調する「リキッドメタル」というSP用特別色。

塗装には熟練した技が必要であるため、タンクの一つ一つが職人さんによる手塗りなのだそうです。

色の美しさもさることながら、それを聞けばますます所有感は上がりますね。

その色をたたえるタンクの造形はかなり凝ったもの。

タンク上部の左右幅は大きいものですが、腿周りは驚くほどスリムで、シートに連続した面を形成しています。

SPでは滑りにくいメッシュ地の表皮にブルーのダブルステッチが施されたスペシャルシートを採用。

そのシートも3次元的でユニークな形状。

シート先端は絞り込まれた形になっていて、マシンのホールド感は良いと思います。

ただ(あくまで筆者の主観ですが)ケツ圧を分散する面が少ないので、

シート材質にいささか硬さを感じるのが難点。

長距離を走行時には、バイク座シートなどの緩衝補助シートの装着がおすすめです。

テールデザイン

テールデザインは2017年モデルから一新されたもの。

LEDテールレンズもより未来的な形となり、テールビューはフェンダーレスのように極めてすっきりしています。

ナンバーホルダーはフェンダーを兼ね、スイングアーム左側後端から生えたCFアルミキャスト製のアームにマウントされています。

夜はLEDのナンバー灯がくっきりと光りこれがなかなかきれいです。

ホイール/タイヤ周り

見に鮮やかなパープリッシュブルーにペイントされたホイールはSP専用のもの。

前後のリムにはSPであることがバッチされていて、所有感を演出しています。

タイヤサイズは

・フロント:120/70ZR17M/C (58W)
・リア:180/55ZR17M/C (73W)

となっており、ブリジストンのS20が標準タイヤとして装着。

最近S22が発表されましたが、S20も接地感・コントロール性が豊かでツーリングからサーキット走行会まで幅広くこなせるタイヤ。

このタイヤからもMT-09SPの楽しみどころが予見できますね。

独特な雰囲気を持つ車体

跨ってみると、コンパクトに収まるライポジに驚かせれるはず。

その理由を確認していきましょう。

画期的な構造

まず驚いたのはクラッチケースの位置。

MT-09PSはフレームがコンパクトなので、クラッチケースはかなり飛び出して見えます。

右足はこのようにクラッチケースの真下にきて、スネでクラッチケースを蹴ることができる程。

つまり、それだけ車体がスリムにできているんですね。

クラッチケースをこの位置にドンと大きく見せているのがCFアルミダイキャストフレーム。

ステム付近はがっちりと造られていて、エンジンをハングしながらフレーム後端に向けて内側に絞り込まれています。

この付近をよく見るとフレームが内側、スイングアームは外側からフレームを包むように締結されています。

4気筒に比べ確実にスリムな3気筒エンジン

これがいか程にスリムなモノかがお分かりいただけるのではないでしょうか。

また、このフレームは高圧鋳造されたの左右のアルミフレームをボルトで締結するという画期的もの。


写真引用元;ヤマハ発動機/フレーム/鋳造/鍛造/ダイキャスト

製法から創り上げていくヤマハのモノづくりの凄さを知る上で、このフレームは実に象徴的なものだと言えます。

独特なライポジ

その車体構成が作り出すライディングポジションもまた独特なもの。

MT-09SPのシート高は820mm、ちなみに筆者は162㎝です。

片足であればつま先で足の指の付け根くらいまで接地させることができ、足つきに不安を感じることはありません。

そして、前から見るとこのようにハンドル幅が広く、車体に入力するのが非常に楽な印象です。

真横から見ると、このようにハンドルがライダーに近い位置にあるのがお判りでしょうか。

ライダーは常にアップライトで非常に楽なポジションを維持しやすい形になっていて、大型オンロードスポーツバイクとしては異例なほど視点を高く感じます。

しかし、これは単に乗りやすいだけではなく、ここには非常にユニークな感覚があります。

両足をステップに乗せた乗車姿勢だけを言うと、ハンドル・ステップの位置、腿周りのスリムさが、以前筆者が所有していたヤマハのWR250Rに似た乗車姿勢をつくっています。

元々、MT-09はロードスポーツにモタードバイクの要素を掛け合わせた、いわば異種混合バイク。

やはりこうして跨ってみると、それがどういうことなのかがよくわかりますね。

従順にしてスパルタンな走り

跨っただけでもかなり独創的な感覚を得ることのできるMT-09SP。

いよいよその乗り味を試してみることにします。

電制システムは至ってシンプル

MT-10SPではYZF-R1譲りの電制システムが搭載されていますが、

MT-09SPではスタンダード車同様シンプルなもの。

右スイッチにはD-MODEの切り替えスイッチがあり、A(強)→STD(スタンダード)→B(弱)の3段階の走行モードを選択可能。

左側は、ディマーの隣にTCSスイッチがあり、トラクションコントロールの介入度の強さを1(弱)2(強)から選択可能となっています。

走行中は適宜これらを切り替えながら、エンジン・車体のキャラクターを確かめました。

低速の静粛性はありがたい

エンジンは120°クランクを持つ3気筒クロスプレーンエンジン(CP3)

スターターを引くとリュリュっと元気に始動しました。

冬場の朝一ということもあって、最初は走行モードをマイルドなBモード・TCSは介入度を強めた2で走行。

エンジン回転数をあまり上げなくても、トルクの太さに甘えて静かに走れるのは嬉しいですね。

低速での静粛性は、早朝の住宅街にあってかなり助かります。

ハンドル幅の広さのおかげで操作がしやすく、太いトルクと相まって駐車場内のUターンなど細かい操舵がとても楽。

筆者は半年前までXJR1300Lに乗っていましたが、MT-09SPでは車体の重さを気にせず軽快に操縦できる感覚が楽しいですね。

先述の通り250オフロード車のようなコンパクト感と、スポーツバイクのどっしりした安定感が同居しているのが面白い。

これは恐らくトリッキーな動きを狙ってのパッケージングだと思うのですが、この操作性の良さは低速化でこそ真価を発揮し、小柄なライダーにはかなりの助けになります。

機敏な応答性を楽しむ

国道に入り走行モードをスタンダード(STD)に変更。

STDではBモードよりもアクセルレスポンスがシャープになった感じがします。

レーンチェンジなどではメリハリがしっかりと効いて、ライダーの意思に従順な反応が楽しいですね。

また、車が多くなってくるとありがたく感じるのは視点の高さ。

視点の高さが視野を広げ、先を読みやすくしてくれることでできるメンタルの余裕も、バイクの動きを良くしている気がします。

静寂と興奮を手に入れる

高速のインターに入り、走行モードをAモード、TCSは介入度を弱めた1に変更します。

料金所のゲートをくぐってフル加速を試しました。

アクセルをワイドに開けていくと、5千回転付近から7千回転付近にかけて猛然と湧き上がるパワー感が愉快。

早朝の静粛性とは打って変わって、この回転域の「グゥォォー!!」という音はかなりエキサイティングなもの。

静寂と興奮が同居したキャラクターはまるでジキルとハイドのようだと、大口をあけて笑っていました。

クイックシフターの使いどころ

加速時には、UP側に働くクイックシフターも試してみました。

クラッチ操作を減らしてツーリングを楽にしてくれる装備としても期待したいクイックシフター。

しかし4千回転以下の低回転でシフターを使うと、ちょっとギクシャクしてしまうことがあるようです。

逆に6~7千回転付近でつないでいくとスムース。

これはどうやら高速の加速時や、ワインディングなどでスポーツ性を上げる方向で装備されているように感じました。

TCSに関して

今回は、TCSも幾度か切り替えてみましたが、晴れた日のしかも直線が多い舗装路での試乗でしたので、1・2の差というのはしっかりと感じることができませんでした。

ただ、もしかすると筆者の知らないうちに作動して、トラクションを保ってくれていたのかもしれません。

黒子に徹し、出しゃばらないデバイスこそが良いデバイス。

恐らく雨天や未舗装路や、速度レンジを上げての走行では、大いにその恩恵を感じるのではないかと思います。

正真正銘Hyper Nakid

「ハードな使用に耐える足回りを」

そんな要求に応え、SPでは前後にスペシャルサスを装着。

フロントはKYBの2WAY

伸び側・圧側共に減衰力調整機構を持つ他、プリロード調整も可能なフロントサス。


伸び側+プリロード設定機構↑

特に圧側減衰力は、低速/高速の2ウェイ調整が可能なのが特長です。


外側の金ナットが高速側・内側の銀の6角ナットが低速側

例えば、

「ゆっくり走るときにもっとしなやかな動きで、高速ではカッチリ感をもっと強調したい」

そんなわがままな要求にも応え、低速での動き・高速での動きを重視したい状況に合わせて、別々にセッティングすることが可能なのです。

リアサスはオーリンズ製

減衰調整は伸び側30段・圧側20段とバリエーション豊かなセッティングを楽しむことができ、リモートアジャスターも装備されているので、(ある程度の範囲で)工具不で調整が可能。

これはタンデムや荷物の多いツーリング時に威力を発揮しそうですね。

まとめ

今回はこの車両を使って高速を約500㎞にわたって走行しました。

メーカー公表の1名乗車時燃費が19.7km/Lなので、今回は好成績と言えるのではないでしょうか。

サスの設定を変えてのレポートもお届けしたかったのですが、それができないままタイムアウト。

終始お借りした状態での走行となってしまいました。

あえてその設定での印象を言いますと、サスは前後に接地感を感じながらも、低速・高速共に少々固めなイメージ。

ただ、緩めようと触れたリアのリモート機構は既に最弱だったので、

『MT-09SPはさらにスポーツライクな走りに対応するもの』

と解釈しています。

その走りは優しくもあり、スパルタンでもありトリッキーな動きも楽しめるバイク。

ですが、筆者としてはこの高い操作性安定性大型初心者や女性ライダーに推したいですね。

表するならこれが、「ハイパーネイキット」の乗り味。

皆さんもぜひお近くの試乗車やレンタルバイクなどで体験されてみてはいかがでしょうか?

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