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YZF-R25が救う?「喫緊の課題」
この秋、新型モデルが発表となったヤマハのYZF-R25。
既に海外のヤマハHP上では正式にラインナップに加えられていることから、日本で新型の正式発表も秒読み段階といったところでしょう。
元々、今回の試乗はそれを踏まえて新型試乗時の「比較用アンダースタディー」として考えていたもの。
ですが、回を重ねてYZF-R25に乗っていくうち、その矛先がかなり深いところにハマってしまいました。
唐突ですが皆さん、今のバイク人口の平均年齢が※52.7歳であるとことをご存知でしょうか?
※日本自動車工業会が2018年4月に発表「2017年度二輪車市場動向調査」による
業界は今、「若者のバイク離れ」だけでなく「高齢化が進むコアユーザーのライダー寿命延命」という重大かつ喫緊の課題にさらされているのです。
エントリーユーザーや、バイク女子の味方としても名高いのが今回お借りしているYZF-R25。
試乗した筆者は、絶賛高齢化進行中の約50歳です。
大小さまざまなバイクに乗ってきて、「若向きのバイク」と若干高をくくって乗ってしまったのですが…。
YZF-R25はバイク歴32年目のおじさん(筆者)を、「大人向きの愉しさ」で魅了してくれたのでした。
『ひょっとしたら、おじさんにこそYZF-R25?
喫緊の課題のカギ握るのは小さくて面白いこんなバイクなのかもしれない!』
今回はヤマハYZF-R25に救世主としての可能性を探ります。
ビジュアル的な所有感
今回お借りしたのはパールホワイトの2018年型ヤマハYZF-R25 ABS。
2015年の登場以来デザインに大きな変更はなかったので、
『このクラスもありふれた感じになっているし、大型持ってるのにいまさら250かぁ』
と、多分そうやってまじめに見てこなかったのかもしれません。
ですが、いざ手元に置いてみると、まずこのモデルのビジュアル的な美しさに新鮮な魅力を感じる自分がそこにいました。
全体の小ささというのはどうしてもを感じてしまうのですが、自然とそれもネガティブな受け止め方ではなく、各部のデザインを改めて見るにつけ、それがコンパクトかつ機能的に良くまとめられている。
思わず『カッコいい…』と、魅せらながら引き込まれていく感じがありましたね。
どうやらそれも、筆者だけではない様子。
試乗中、とある高速道路のPAにYZF-R25をとめて、少し距離を置いて眺めていると、
足を止めてじっくり眺める人、足早に通り過ぎながらもこのバイクに振り返る人。
わずかな時間でしたが、YZF-R25の優れたデザインが人を引き付ける瞬間を何度も目撃しました。
中々の注目度。
オーナーであれば何気ない視線にビジュアル的な所有感がわいてきて、ホッコリと嬉しくなるのではないかと思います。
無理なく乗れる丁度よさ
YZF-R25の装備重量は167kg(ABS車とR3は170kg)。
やはり大型に乗ってきた人が跨れば、YZF-R25の車格は当然小さく感じると思います。
しかし、「無理なく乗れる丁度良さ」は、1つの機能であることに気づかされることでしょう。
シート高は780mm。
ちなみに筆者の身長は162㎝です。
全体にハンドルが近くて、ややアップライトなポジションは、評判通り親しみやすくて非常に好印象。
何より、両足でしっかり接地できるのがいいですね。
このタンクカバーの造形もニーグリップ時に脚なじみ良く、コーナーでの自然な入力についても良く考えられたものだと思います。
車体は軽く、取り回しがとにかく楽。
特に恐らく筆者のように、長年大型車に慣れ親しんだ小柄なライダーであれば、この軽くてなじみやすい感覚は新鮮な魅力として感じられるのではないでしょうか。
YZF-R25その玄人好みの楽しさ
YZF-R25のエンジンは12,000rpm/35PS、10,000rpm/23N・mの最大トルクを発揮する249㏄並列2気筒。
4気筒250㏄や2st全盛期を知る筆者世代のライダーの中には、今の250㏄オンロードスポーツを、「温めのバイク」と揶揄する人もいますね。
なので「今どきの250スポーツってそんなにツマラナイの?」という疑問、
揶揄する声への解答を探ることも、今回の試乗テーマの一つでした。
アクセル1つで色彩を奏でるエンジン
スターターボタンを押すと、180度クランクのパラレルツインが「トゥルルルルっ」と歌い始めます。
まずスタート後は、シフトタイミングを5,000回転くらいにしてゆっくりと走行。
これはおそらく先入観の様なものですが、試乗前はかつての2気筒車にありがちだったもっと「ドカドカっ」と野太い音や強い鼓動感を想像していました。
しかし、走り出してみるとオフセットシリンダーの効能か、振動らしい振動を感じること無くシルキーに回るエンジン。
アクセルの応答性にはマシンとの対話感が感じられます。
オフセットシリンダー↑
初速からスルスルと前に進めてくれるトルク感。
「ラララっ」という小気味よいサウンドが心の雑味を癒しながら、いつもの街並みを穏やかに見せてくれています。
言うなればこの走り方は、のんびりトコトコ走る「お散歩モード」ですね。
そうしてのんびりと近所の道筋を抜けながら、流れの速い国道に合流。
7,000回転付近をシフトポイントにしていくと、車の流れに乗るのも楽。
メリハリのある機敏な動きを見せてくれます。
この回転域のエンジン音はクレッシェンドな割と甲高い音。
高速道路で100㎞/h巡行もこのくらいの回転数をキープしますね。
当初はこの音のかん高さが、高速巡航時の疲れに代わってしまうのではという心配もありました。
しかし、ここはスクリーンが実に機能的にできていることに驚かされましたね。
走行風をうまくいな往なしながら耳に伝わるエンジンの音を和らげてくれていて、これを不快に思うことはありません。
さらに、相変わらず手にも不快な振動を感じることがなく、高速巡行は思った以上に快適。
「なるほど、シフトする回転域でマシンの表情が変わるのか」
それに気を良くして、料金所からのスタートは10,500~12,000回転でシフト。
この回転域のモリッとしたパワーをキープしながらシフトをつないでいくと、
まるでエンジンが、
「諸元?そんなもの忘れちまえよ」
と言っているかのように叫び、ワイルドなスポーツバイクへと変身。
この回転域は、スポーツモード的なものだと言えるでしょう。
例えば、筆者が学生時代に乗っていた後方排気のTZR250。
これも「回転域で表情を変える」と形容すればそう言うことにはなりますね。
ただ、こちらはエンジンのおいしいところが限られていて、バイク漫画「ばくおん」にでてくる通り、けしからんほどピーキー。
なので、パワーバンド以外に低回転が楽しいかと言うと、答えは限りなくNOですね。
TZRとの比較はかなり好対照ですが、さらにその前に乗っていた4気筒のFZR250の経験からしてもYZF-R25は面白い。
YZF-R25はトップスピードにスリルを求めるバイクではありませんが、使いたい回転域がまんべんなくキッチリ使えて、多彩な走り方を楽しめるのが魅力です。
また、電脳バイクではスイッチで走行モードを切り替えるわけですが、
意思や状況に応じてバラエティー豊かな走り方をライダー自身が引き出していく。
アナログなバイクでこれをキッチリ楽しめるのですから、最近の大型バイクに慣れた経年ライダーにとってもこの魅力は新鮮な発見になるでしょう。
上質な足回りに惚れる
250㏄スポーツとして、YZF-R25は標準的かつシンプルな装備構成。
しかし、今回の試乗でエンジン以上に驚いたのは、これら足回りの上質さです。
フロントフォークは正立。(2019年型では倒立フォークを採用)
リアにはRシリーズに共通するロングスイングアーム。
多分このスイングアームの長さも、「スッ」と収まる安定感のもとになっているのだと思います。
市街地では路面の継ぎ目などからくるショックをショックをきれいに収めてくれているのが好印象。
タイヤの情報をしっかりとライダーに伝えてくれ、丁度良い手ごたえもありますね。
高速に入ると、この動きはカッチリとした感じになっていくのですが、こうしたタイヤの接地感がちゃんと保たれていることに安心を覚えます。
高回転でギアをつなぎながらワインディングをかけていく場面では、ピッチングの動きがしっかりと寝かし込みのタイミングを教えてくれました。
さらにアクセルを開けながら立ち上がれば、リアタイヤにトラクションを与えながら粘ってくれているリアサスの存在感はなかなか頼もしいものですね。
若気の至り、筆者がO社のサスにM社のマグホイルを付たSSバイクでいい気になっていたのも今は昔。
あえてその記憶を型紙にするのですが、
YZF-R25は、おいしいところを自分で組みたてて遊べる。
その面白さが際立ったバイクだと思います。
安く楽しめるという「性能」
広報車をお借りしての試乗レポートでは、ヤマハの「RevNote」というアプリを使って燃費計測をしています。
今回のYZF-R25の燃費がこちら。
市街地から高速を抜けてワインディングを走り、約200㎞の燃費がたったのこれだけ。〔アプリのシステムは満タン法です。〕
どの車種と言うのは控えますが、以前同じコースを同じように走った大型車では燃費は約半分、ガソリン代は約2.5倍でした。
YZF-R25の諸元によると、低地燃費は37.7km/Lということですから、恐らく市街地走行と高速巡行だけであればさらに燃費は上がるでしょう。
あえて言うなら車検もなく、消耗品代含め維持費は相当にリーズナブルに収まります。
「安く・大きく楽しめる」という性能
これがYZF-R25の大きな魅力であり、「バイクを始めてみようかな?」と言うエントリーユーザーの背中を押す力になっているのですね。
「最後のバイク」って何だろう?
冒頭、バイク人口の平均年齢が52.7歳であるとお伝えしました。
筆者も間もなく50歳。
マシンの故障で半年前に愛車を失ってしまったので、ライフステージを考えると、
『次に買うのが最後のバイクになるのか?』
と思ったりします。
いつぞや試乗させていただいたヤマハのMT-10SP。
子の性能に惚れ、これが「最後」としての最有力候補だったのですが…。
YZF-R25にここまで真剣に乗ってみた結果、この子が購入候補に急浮上です。
「最後のバイクなんだ…」
というのは最近同年代のライダーからよく聞く言葉です。
みんなはにかんでそう言うのですが、それはどこか、
「終わりを意識した今」
のように、ちょっと悲しい響きに聞こえてしまうんですよね。
実にシュールです。
今回はYZF-R25に乗りながら、
『経年ライダーのライダー寿命を一日でも延ばすことにつながる?』
という希望的観測を抱いたわけですが、
やはりYZF-R25は
「青年エントリーユーザーの背中を押し、壮年コアユーザーの活力になるバイク」
そう言えるほど広い間口の広さと、深いタレント性を確かに持っていました。
この楽しさは、筆者のように普段大型バイクに慣れ親しんでこられた経年ライダーや、
子育てがひと段落してリターン志願の皆さんにも、ぜひ確かめていただきたいですね。
まずは是非、お近くのお店で試乗車もしくはヤマハバイクレンタルで、その乗り味に触れてみてください。
きっとYZF-R25のような小さくて面白いバイクが、皆さんのバイクライフをいつまでも明るいものにしてくれるのではないかと思います。
車両協力;ヤマハ発動機販売株式会社