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未来を拓く1台の発表
イタリア・ミラノで開催されているEICMA(ミラノ国際モーターサイクルショー)。
この中で台湾のメーカーKYMCOが、電動車でありながら6速ミッションを持つ、スーパースポーツバイク「Super NEX(スーパーネクス)」を発表しまた。
スクーターやEVなどでグローバルな躍進を続けるKYMCO。
そのステージはいくつもの車種をドドっと紹介するのではなく、ただ1車種についての静かなプレゼンテーションでした。
ただ、1車種のみについてのプレゼンテーションにもかかわらず、その内容はどのメーカーの何にも増して大きな意義を持つもの。
「EV+6速ミッション」というだけでもかなりセンセーショナルな内容なのですが、
「なぜその形を持たせたのか?」
そこを淡々と語ったことが単なるバイクの発表とは大きく違う点であり、筆者としても今後のバイクの方向性として、ぜひ多くの方に知っておいていただきたいと思う内容でした。
登壇したのはKYMCOチェアマンのアレン・コウ氏。
主に語られたのは、
「来たるべきEV時代にスーパースポーツバイクの官能的な在り方を問う。」
という内容です。
間を巧みに使いながら、聞き手のイマジネーションを増幅させていく話法は実に詩的で耳心地良く、筆者もかなり心を動かされました。
今回は、そのアレン・コウ氏によるプレゼンテーションの内容をまとめながら、新時代の扉を開くEVスポーツ、Super NEX の概要をお伝えしたいと思います。
Super NEXになぜギアを与えたのか
Super Nexの中で具現化された「新時代への情熱」を静かに放熱させていくかのように、アレン・コウ氏は一つ一つを実に詩的に語っていきました。
「例えば、ギアをシフトしていくことで、リズムを作りタイミングを計りながらバイクを息づかせることができます。
これがバイクとライダーとの間に情緒的な関係性を生んでいくわけですが、それを巧みに操ろうとすれば、ある程度のスキルも必要になってきます。
そのスキルを高めていこうとすることもライダーにとって大きな楽しみ。
それ自体が、ライディングをアート足らしめていることで、私たちはそれを未来にもっていきたいのです。
私たちがSuper Nexにスリッパークラッチ付きの6速ミッションを与えた理由はそこにあるのです。」
EVがもたらす驚異のスペック
「ライダーなら、アクセルを開けていく瞬間、そこに今自分が存在している喜びを感じるはず。
アクセルを開けて爽快な加速感を得られれば、頭の中が整理されていく感覚にもなるものです。
しかし、シングルギアの電動モーター車はパワフルながら、スピードの伸び方というのはどんなアクセルの開け方をしても一定なうえ、パワーの伸びは頭打ちにもなるもの。
残念ながら今日までのEVバイクにはスポーツバイクと呼べるものはありませんでした。
でも、Super NexはこれまでのEVとは全く違います。
ギアを持つことによって、ライダーが欲しいパワー領域を選択することが可能なのです。
EVとしての効率を向上させるだけではなく、応答性や加速度に対する官能を得ることができます。
その結果としてSuper Nexは、
- 0→100mが2.9秒
- 0→200km/hは7.5秒
- 0→250km/hは10.9秒
という驚異的なスペックを達成しました。
真に魅力あるSSバイクとは?
ただ単純に狂気的に速いだけのバイクを、私たちは魅力的なバイクだとは言いません。
そんなものを扱えるライダーは、ハイレベルなスキルを持つごく少数でしかないからです。
したがって、魅力あるスーパースポーツバイクというのは、すべてのライダーにそのパフォーマンスを許容するものである必要があると考えます。
さらに、バイクのエキサイトメントとは限界を探ることに起因するものですが、それはマシンへの信頼なしには語ることはできません。
最高のテクノロジーをもって安全を提供すること。
これがまさにスーパースポーツバイクに求められる新次元のスキルなのです。
「こんにちのスポーツバイクには、様々なエレクトロニクス・デバイスが搭載されていて、限界に挑戦するライダーのパフォーマンスを助け、安全の支えになっています。
EVバイクには内燃機バイクよりも強大なトルク・パワーを発生することができますが、そのままではそれらのパワーもすぐにライダーに対する負担に変わってしまうのです。
そこで、私たちは、電動スポーツバイクを安全かつ官能的なものにする、パフォーマンス管理システム、「FEP (Full Engagement Performance)」を開発しました。」
「例えばサーキットでは、常に完璧なスタートが求められるものです。」
「さらに、ハードなブレーキングも耐えることや、加速時のホイルスピン、そしてウイリーを抑え、後輪に最大限のトラクションを与えながら立ち上がっていけること。
レインコンディションでの安定性なども必要とされます。」
「FEPはこれらの要求をかなえることはもちろん、必要に応じて制御の関与度を変えることも可能です。」
「もっと熱く、もっと限界に挑戦したい。」
「Super Nexは、全てのスポーツバイクライダーがそのポテンシャルを存分発揮できるようにし、誰もが追及する至高の感覚を手にすることを可能にしたバイクなのです。」
バイクにとって「サウンド」は命
「音」はバイクの「声」でもあります。
「それは人間とバイクとの間の関係性を豊かにする重要な要素の一つで、決して余分なものなどではありません。
ギアをシフトし、アクセルを開ける、このタイミングや強さによってバイクは語り、歌い、叫ぶ。
これがライダーにとって情熱的な悦びになっていくのです。
さらに、「音」はバイクのキャラクターを構成する要因の一つでもあります。
時に唸り、時に晴れやかに、時に荒々しくある。
スーパーバイクはそれぞれ個々のサウンドを持っていて、これがバイクのオーナーだけでなく、モータースポーツのオーディエンスを歓喜させるところです。
その一方で、電動車が静寂な環境への配慮のために開発されているというのも事実で、音がないことを「改善」と呼ぶ人もいます。
しかしスポーツバイクファンならこういうでしょう。
音をなくせば、マシンはそのキャラクターを奪われ、単なる無機質な交通手段でしかありえなくなる。
バイクはそんなものではない!
燃え滾る様な情熱の象徴なのです!」
「Super Nexのモーターには音響を発生するモーターを採用しています。
これはスポーツバイクのエクゾーストノートの周波数を研究してデザインした言わばマシンの「心拍」とも言えるものです。
スーパースポーツのダイナミックでスリル溢れるサウンドはライダーのニーズを満たすことになると思います。
我々がSuper Nexに「音」を与えたのは、バイクを単なる乗り物として考えるのではなく、魂ある乗り物として考えているから。
まして、「音」というのはライダーの魂だと思うからです。」
人の感性を満たすバイクとは?
「私たちは、気持ちの中にワイルドさを求めることもあれば、静寂を求めることもあります。
つまり様々な状況に合わせた選択ができる自由を求めているわけです。
だからこそ優れたバイクには、ライダーの欲するすべての状況に瞬間的に対応できる能力が求められるのです。」
「例えば、近所を静かに走ることで静寂を手に入れる。
そしてスイッチを切り替え、力の中に身を置いてみる。
またある時はマシンと自分の心拍とを重ね合わせ、タイヤのグリップに身を任せながら大胆な自分を楽しんでみる。
さらには情熱に燃え滾る己の熱さに真の自分を見出してみたり。
ライダーがバイクを楽しいと思う為には様々な方法があってしかるべきです。
すべての気持ちをサポートし、ライダーの中に多様性を創造するスーパースポーツバイクこそが私たちの理想。
Super Nexはライダーの感性や欲求を忠実に反映させることができるバイクなのです。」
心ひとつに未来を創る
「私たちKYMCOはある一つの気持ちに突き動かされています。
それは、
「己の心に勝つ」
ということです。
「完璧なスパースポーツバイクを夢見て、我々は来たるべきEV時代に向け、妥協を許さず、スーパースポーツバイクにおける新時代を創っていきます。」
Super Nexの外観
そしてSuper Nexがついにその姿を現しました。
ヘッドライトはLEDを多用した近未来的な光。
テールランプは左右に分割されたLED。
これもなかなか独創的です。
がっしりとしたフレームで、全体に割と大きさを感じます。
フロントフォークはオーリンズで、キャリパーはブレンボのレーシングモノブロック。
同様にリアサスも、オーリンズ製となっており、
ホイールはOZレーシング製。
スイングアームもかなりの剛性感を感じますね。
まとめ
確実に電動化に向かうモータリゼーションの中で、それを単に環境の側面から語るのではなく、バイクの楽しさという側面からEVを語ったプレゼンはこれまで聞いたことがありません。
内燃機エンジンのエキサイトメントをEV時代に持っていく。
何よりこれが意義深く、筆者がこのプレゼンテーションに興奮を覚えた点です。
これまでもEVの可能性についてはいくつか記事の記事の中でお伝えしてきました。
恐らく…、
「平成って、バイク走らせるのに確かガソレン?だっけ、そんな感じのものを入れてたんでしょ?」
みたいなことを今の幼児が大学生になったくらいの時代に言われるかもしれません。
例えば10年ほど前に、生活の大部分をスマホでこなせる世の中をだれが想像したでしょう?
今は大して注目されていないものが主流になって、今の常識が過去のものになる。
KYMCOのプレスカンファレンスを見て、EV+ミッションが当たり前になる日もそう遠くないのではないかと思いました。
今回はだいぶ意訳しているので、カンファレンスの正確な内容をおしりになりたい方は下記の公式動画をご覧いただければと思います。
ちなみに…、
31分46秒あたりから、Super Nexが奏でる「EV+ミッション」のサウンドを聴くことができます。
これは聞きものですよ!
映像引用元;KYMCO/EICMA/SuperNEX