目次
155㏄のYZF-R
昨年4月からヤマハがインドネシアで発売しているYZF-R15。
パッと見ただけでも、倒立フォークを擁する足回りや精悍な印象のマスクは、兄貴分のYZF-R25も嫉妬しそうさなほどレーシーな雰囲気を持っています。
YZF-Rといえばヤマハが一切の妥協無く「感動」を追い求めるスーパーマシンの称号。
しかし原付二種に毛の生えたような、わずか155㏄のマシンにこの称号が与えられるというのは、R1・R6を乗り継いだ筆者にとっても大変興味深いところです。
このマシンのPRにはヤマハのGPライダーV.ロッシやM.ピニャーレス選手が起用されていたのをご存知でしょうか?
※映像インドネシアヤマハR15公式ホームページより出典
155㏄のマシンのPRにGPライダーを起用するあたり、YZF-R15に対するヤマハの力の入れ具合も相当ですよね。
それはそうと、なぜ去年発売のマシンを今取り上げるのか?
これは追々後述していきますが、どうやらこのマシンが今後のヤマハのニューマシンにとっていろいろとキーになるものを持っている考えるからです。
近年、静かな注目を集める250㏄以下の小排気量スポーツバイク。
今回は神奈川県川崎市にあるYSP川崎中央さんの試乗車をお借りして、155㏄にしてYZF-R、その実力を見せてもらうことにしました。
これはどう見てもYZF-Rだ
まずは外観から見ていこうと思います。
模倣ではなく「そのもの」
シリーズに共通して、織り込まれたカウルデザイン。
その中に納まる灯火類はLEDでまとめらています。
これは兄貴分のYZF-R25以上のシャープさを感じますね。
GPマシンYZR-M1の流れをくむエアダクトもレーシーな雰囲気です.
しかし、実際このダクトはラムエア等の機構を持っているわけではありません。
あくまでこれはデザイン上のもの。
だとしてもやはり、このダクトの上あたりから流れるラインは、YZF-Rとしてのアイデンティティーを感じます。
YZF-R25の場合は、タンクは小さくて中央が盛り上がった独特な形。
YZF-R15では、前方にR1譲りのスリットが入りっています。
このだけを写真を持っていけば、「これ、次のR1のタンクのリーク写真、ここだけの話内緒だよ…」と何人かに意地悪な嘘がつけそうです。
これが155㏄のマシンのタンクだと種明かしをした時の相手の顔も楽しみですね。
また同じように、もし「YZF-R検定」があったら、たぶんこのテールのデザインもの出題にちょうどいいでしょう。
きっと何人かが「R6!」と答えてお手つきをするかもしれません。
しっかりLEDで構成され、風を逃がすこのスタイル。
この雰囲気は、YZF-Rシリーズを模したものではなく、YZF-R15がれっきとしたYZF-Rシリーズの一員だという証です。
フレーム・足回り
フレームはツインスパータイプ。
材質的にはスチールということですが、内部をトラス構造とするヤマハ伝統の「デルタボックス」を採用。
裏側もしっかりと閉じられた形になっているので、かなりの剛性感もバッチリです。
やはり目に付くのはこの倒立フォーク。
この倒立フォークの存在はYZF-Rとしての本気度をアピール。
Fキャリパーは片押し式の2ポットのシングルディスク。
それを支えるホイールは、R1やR6の様に中央部がしっかりと肉抜きされ、バネ下重量を軽くすることでコントローラブルなマシンとして造り込もうとしているのがわかります。
タイヤは250㏄スポーツクラスでは定評のあるIRC製ロードウィナー。
フロントでは、100/80-17M/C 52Pというサイズを履いています。
足回りの入れ込み具合はリアはフロント以上。
フロント同様リアもタイヤはIRC製のロードウィナー。
サイズは140/70-17M/C 66Sです。
やはりホイールの肉抜きも万全といったところ。
スイングアームはアルミ製のロングタイプ。
前モデルを引き継ぐものですがその造り込みが見どころです。
この写真ではやや見えずらいですが、右側はマフラーの逃げを設けたガルアームタイプ。
左側はチェーンを貫通させる形になっていて、その造形に一切の手抜かりの無さを感じますね。
スイングアーム全体を見ると、YZF-Rシリーズに一貫して採用されているロングスイングアームとなっています。
なるほどこれは中身もさぞかしYZF-Rなのだなと、その乗り味がますます楽しみになりました。
//pagead2.googlesyndication.com/pagead/js/adsbygoogle.js //
155㏄のYZF-Rその乗り味は?
さて、見せてもらおうか、155㏄のYZF-Rの実力とやらを…。
足つき性・ポジション
ハンドルのポジションは、初代R6の5EB に似たゆとりのある前傾。
基本的にあまりタイトなものではなく、街中を快走するのにちょうどいいポジションだと思います。
それでも、YZF-R25からすると若干前傾多めといったところ。
162cmで座高90cmという筆者が乗るとこんな感じです。
シート高は815mmということで、現代のスポーツバイクとしては驚くような数値ではありませんが、クラスを考えれば高目なものだと思います。
しかし、ステップ位置が若干高いせいか、適度に腰高感を感じます。
両足ではつま先立ち、片足なら若干化かかとは浮きますが、脚元に苦労するほどの感じは皆無でした。
さすがに小排気量車なので、取り回し上重量をネガティブに思うことはありません。(重量137㎏)
それでいて、跨った感覚の中にはミニバイクのような小ささを感じることがありません。
ライディングポジション的に、1クラス上のカッチリとしたスポーツバイクをとても軽々と扱うような感じ。
これがまず、跨ってみての印象です。
あっ、このエンジンは面白い!
さて、いよいよお借りしたYZF-R15を街中で走らせてみます。
今回の試乗はコースこそ設定されていないものの、市街地を30分程度というお約束。
なので、その中でできる走り方としていろいろ試していきます。
エンジンは水冷単気筒で、最高出力は10,000回転時14.2キロワット。
(15キロワットが20hpなので、だいたい18hpくらい。)
さすがにこの数値だけを見てしまうとスポーツバイクとしてのイメージが薄れるという人もいるかもしれませんね。
しかし乗り味は数値以上に豊かで楽しさにあふれるものでした。
最初にエンジンをかけてみると、外装のイメージからはちょっとかわいらしくも思える、「トコトコトコ」というアイドリング音。
ギアを一速に入れて走り出すと、初速のトルクは薄いのかなという印象を受けます。
マシンに慣れようと、はじめはロードバイク(自転車)に抜かされるようなスピードでゆっくりと走ります。
『カブ125って乗ったらきっとこんな感じ?』
と思うほど、低回転ではおとなしいコミューターでした。
やがてマシンにも慣れてきたところで、低速トルクの立ち上がりぶりを試してみました。
今回は4速で30㎞/hまで速度を落とし、そこからグッとアクセルを開けました。
するとモリモリモリっとふけあがり、90㎏オーバーのおっさんを載せた155㏄の単気筒がスルスルと加速していくのです。
初速では「薄い」と感じたトルクも中速域では頼もしい感じであることがわかりました。
これに気をよくして回転数をあげていくと、いよいよエンジンの本領が見えてきます。
このエンジンの売りは「VVA」(VARIABLE VALVES ACTUATION)。
つまり、小さいながらも可変バルブシステムを備えているんです。
メーターパネルにも、7000回転からスピード表示の上に「VVA」と表示されます。
※停止状態での撮影です
ちょうど、ここからグイッと車を前に推し進める力を感じるんですね。
これは試乗後にわかったのですが…。
ヤマハインドネシアM・Mのホームページでは、YZF-R15のパワーカーブが示されており、これが筆者が感じた通りのパワーカーブでした。
おとなしくも思えた単気筒155㏄。
この7000回転以降の回転をキープしていくと、エキサイトメントに満ちたYZF-Rとしての性格をしっかりとのぞかせてくれます。
ただ、そうやってタコメーターをチラ見しながら加速していくのが楽しいマシンだけに、『メーターパネルがもうあと4㎝上にあってくれれば見やすくなるのに』と思ってしまいました。
まぁ、メーター全体はシンプルで見やすいので良しとしますか…。
「これはマジで面白い!」
思い出したのは、かつて筆者が乗っていた後方排気のTZR(3MA)。
さすがにあそこまで「けしからん」加速はないですし、トップスピードも控えめなわけです。
しかし、高回転を保てば面白い世界が待っている「あの感じ」は、3MAの記憶を呼び起こさせるものでした。
3MAのお記憶とともにあるのは、サーキットでエンジンのオイシイところを使ってパワーをつなげていく練習の記憶。
こうして小排気量車を速く走らせることで、エンジンの使い方のセンスを磨く練習方法があるわけですが、YZF-R15なら街中を走っているだけで、その感覚が身につくかもしれませんね。
スイッチはライダーの中にある
YZF-R15に備わっている装備としては、お伝えしているように可変バルブシステムであるVVAと、そのほかにはスリッパー&アシストクラッチがあります。
今回の試乗では市街地走行なので、さすがにスリッパークラッチの効能を試す機会はありませんでしたが、アシストクラッチによる軽さはありがたいものでした。
車体構成も交差点を2度曲がったきりでしたが、スポーツバイクとしてのヒラリ感、そしてライダーのアクションに対する応答性の良さは十分に感じられました。
倒立サスと凝った造りのスイングアームは非常にかっちりとした感じで、許してもらえるならこのままワインディングを流したいなと思うほど。
試乗時間30分はあっという間でしたが、YSP川崎中央さんにYZF-R15を戻すころには、155㏄のバイクに乗っているという感覚がすっかりなくなっていました。
シリーズの旗艦であるYZF-R1にはIMUなどをはじめ、数々の電子制御が盛り込まれています。
街中を快走するモードがあったり、パワーを楽しんだりするモードがあったり。
それをスイッチ一つで切り替えていくわけですよね。
YZF-R15も、このVVAのおかげで、コミューター的な走りとパワーをつなぐ走り方も楽しむことができます。
もちろん速度レンジは違いますが、同じYZF-Rを名乗るのは伊達ではなくて、コンピューター制御のそれに負けない「1台で2度おいしいバイク」になっているんです。
しかも、そのモード切り替えはライダーの気分次第。
きっと、このYZF-R15を、噛んで味が増していくするめの様に乗りつくした暁には、その辺のSS乗りには負けない「腕」が身についているはず。
アクセルの開け方方次第で楽しさを引き出せる面白さがちゃんと備わっているのが、やはりYZF-Rらしさを感じさせてくれるところです。
YZF-R15は次世代ヤマハの鍵を握る?
さて、冒頭お伝えしたように、このYZF-R15にはヤマハの次世代モデルのヒントが隠されているように思います。
これまで厳しい環境規制の負い目にあって生産終了を余儀なくされたマシンたち。
その中にはヤマハが次期モデルの生産を公言しているモデルもありますね。
この記事の中でも予測していますが、ヤマハは小排気量車種を中心に環境性能の高効率な自社のエンジン規格「ブルーコア」を推進しています。
具体的には高圧縮化で高燃費、そして環境基準のクリアを可能とする空冷エンジンをヤマハではブルーコアと呼んでいるようです。
このヤマハのブルーコア広報動画の中では「Is it fun?」(それって楽しいの?)とロッシが聞いています。
YZF-R15のエンジンは「ブルーコア」こそ名乗っていませんが、いくつかのブルーコアエンジンが採用しているVVAを採用しているあたり、それに準じた造りだと考えていいでしょう。
お伝えしたようにYZF-R15の乗り味は相当に楽しいものでした。
あのロッシが聞いて「それって楽しいの?」
これはロッシが問いかけるからこそ意味がより深くなるわけです。
YZF-R15はその深い問いに十分応えているマシンであり、ヤマハは今後こういうマシン造っていきますよと言う予告だと思うのです。
環境規制の憂き目にあった車種たちの復活も期待が高まりますが、兄貴分のYZF-R25も2014年の登場から早4年。
ライバル車種の進化も著しく、そろそろモデルチェンジがあるのではと噂されています。
一部メディアの噂によると、次期R25のルックスが、YZF-R15に準じたシャープなものになりそうだという話もありますね。
今回YZF-R15に試乗してみると、155㏄にしてはやや大きくも思える車格。
さすがにこのままではないと思いますが、あの180°クランク2気筒にVVAが組み合わさったら、YZF-Rのブランドバリューをさらにあげてくれそうな楽しいバイクになりそうです。
あくまで想像の域を出ませんが、YZF-R15を肴にいろいろ考えるのもなしではないと思いますがどうでしょうか?
YZF-R15諸元
型式 | RG471 |
名称 | YZF-R15 |
参考価格 【YSP川崎中央さんの場合】 |
389,000円 (本体価格) |
全長 | 1990mm |
全幅 | 725mm |
全高 | 1135mm |
重量 | 137kg |
シート高 | 815mm |
エンジン | 水冷4サイクル 4バルブ SOHC単気筒 |
原動機型式 | G3J6E |
排気量 | 155.1cc |
最高出力 | 14.2kW / 10000rpm |
最大トルク | 14.7Nm / 8500rpm |
燃料タンク容量 | 11ℓ |
燃料給油方式 | インジェクション |
タイヤサイズ | F:100 / 80-17M / C 52P R:140 / 70-17M / C 66S |
変速機形式 | 6速リターン |
エンジンオイル量 | 1.05ℓ |
プラグ | NGK / MR8E9 |
バッテリー | GTZ4V / YTZ4V |
カラー | ブルー、 マットブラック、 レッド |
取材協力店のご紹介
今回は神奈川県川崎市にあるYSP川崎中央さんに試乗車のご協力並びに撮影のご協力をいただきました。
YSP川崎中央さんといえば、逆輸入車をいち早く手に入れることができるお店としても知られています。
また2016年には、メカニックの鮫島遼平さんがヤマハが世界のメカニックの技術を競う「第7回ヤマハ・ワールド・テクンシャン・グランプリ2016」において優勝。
まさに世界一のヤマハメカニックさんが在籍するYSP店なのです。
試乗車も豊富で、人気の最新モデルにも乗ることができるほか、今回のYZF-R15の様にヤマハ発動機から国内に販売されていないモデルにも乗ることができます。
お近くの方、ご希望の方は是非こちらにお問い合わせください。