目次
絆深める「親子タンデム」
筆者は最近、小学校2年生の娘を連れて、週末によく「親子タンデム」をするようになりました。
もちろん無理やり「乗れ」といったことはこれまで一度もありません。
最初はある秋の夕方。
娘の好きなおやつを買いに、125㏄のスクーターに娘を乗せて行ったんです。
すると娘は、「今日は夕方だったから今度はもっと明るくてあったかいときに、景色のいいところまでバイクに乗せて」というのです。
それから、タンデムベルトなどいくつか準備をしながら冬を越し、春の暖かい日を選んで初めてXJR1300Lに娘を乗せてみました。
あまり遠くへは連れていけませんが、タンデム中はバイクから見るきれいな景色を共有したり、先生のことやお友達の事。
家の中ではなく、父親におんぶされているような状況だからこそ話してくれることもたくさんあります。
今では娘も楽しんでいるようで、最近天気のいい週末には自らタンデムベルトを持ってきて「今日はバイクでどこそこに連れていけ」と言ってきます。
こうして筆者親子にとってタンデムをしている時間は、親子の心の絆を深めるとても大切な時間になっています。
(※セルフタイマーでの撮影のため、タンデムベルトが外れていますがご容赦ください。)
しかし、筆者にとって「親子タンデムを楽しんでいる」と公表するのはかなり勇気がいることでした。
賛否の多いテーマの性格を理解してもいますので、本稿は親子タンデムを無理にお勧めする内容にしようとは思いません。
ただ、最近筆者は親子タンデムで訪れる先々の駐輪場で、「自分も親子タンデムを考えているけれど、どうしたらいいだろう?」という質問を非常に多く受けるようになりました。
なので、単純にこうした声にモーターサイクルジャーナリストとして応えようというのが本稿の趣旨。
「是非やってください」というおすすめではなく、親子タンデムを必要とする人に、少しでも安全にお楽しみいただけるためのお手伝いができればという思いで執筆してまいります。
「親子タンデム」のいいところ
親子でバイクに乗る利点はやはり、親子で密着した時間を過ごせることです。
筆者ともそうですし、娘は「帰ったらお母さんにこれ話そう」といつもお土産話ができるのがうれしいみたいですよ。
母親のほうはバイクに乗りませんので、家でゆっくりくつろぐ時間ができて、よい骨休めになっているようです。
そうして親子三人、バイクによって、絆を少しづつ深めることができているように思います。
また週末にでかける先は、どこもたいてい駐車場渋滞ができています。
そして駐車料金も割高なのは日常茶飯事。
しかしバイクで行くとそんな駐車場渋滞を横目に、空いた駐輪場に停めて料金も割安。
車1日1,000円、バイク1日100円というところも実際にあります。
停めることに手間取らない分、さっさ遊び始めることができ、場合によってはアトラクションで順番の前のほうを陣取ることもできます。
こんなところが、子どもとバイクで出かけるうえで「ちょっと得する」ところですね。
「親子タンデム」最低限の心得
子どもをバイクに乗せることについて賛成する意見は一般的なものではありません。
同じライダーの中でも、「子どもをバイクに乗せるべきではない」とお考えになる方も多いですよね。
タンデムライダーとしての心得
筆者も何の準備や考えもなく子どもをバイクに乗せるというのはよくないことだと思います。
とにかく大事なのは、バイク自体が危険な乗り物だと改めて強く認識することです。
例えば車もバスも、道行くものにはすべて事故のリスクが伴い、死傷者0の乗り物など皆無です。
例えば、運転を業務とする人には、一般とは違った心構えと技術が「2種免許」という形で必要とされますよね。
それが万能の安全に導くとまではいえませんが、彼らは限りなく安全を目指し、「生命・財産を預かる責任」を負って乗務されておられるわけです。
親子タンデムは「業務」としての運転とは多くの点で異なりますが、リスクを承知したうえで「生命を預かる責任」を再認識する必要がある点では同じだと思います。
つまり、親子タンデムの心得として、最低でも「2輪に2種免許があったら?」くらいの特別な気持ちは必要です。
子どもの「乗りたい」が大前提
無理やり乗せない
とにかく、バイクに乗る意思のないお子さんを無理に乗せることは絶対にやめてください。
親の意思だけで突っ走るのは危険でしかありません。
バイクがお子さんにとって心の傷にになってしまうことは絶対に避けなくてはならないのです。
ですから、これから親子タンデムを考えるならば、子どもさんの興味を喚起し、最終的にお子さんご自身の「乗る意思」を確認することは最低減必要です。
慎重に慣らしていく
そのうえで、親子タンデムをすることになった場合でも、いきなり高速を使った長距離ツーリングに出掛けるのでは避けるべきです。
外気温や走行風への対応は大人の身体と違い、体調に変化をきたしやすいデリケートな存在であることに留意しなくてはいけません。
なので、はじめは近隣の公園などから始め、距離を盛りすぎないことが肝心。
そしてコンビニを使ったりしながら、いつもの倍くらいの休憩を心がけましょう。
もちろん、スピードもお子さんの様子をみて徐々に慣らしながら、お子さんが怖がらないかどうかを確認してペースを決めるのが大切です。
良い時間をプレゼントする
ただ単に親父の行きたいところにだけ付き合わせるのはかわいそうというもの。
せっかくバイクは、ほかの乗り物では味わえないほどの情操を、乗る人に与えてくれる乗り物なわけです。
筆者の場合いつもそうしていますが、3つくらい例えば海・山・公園など「どのコースがいい?」と娘にコースを決めてもらいます。
そうして景色や時間をバイクの上で共有しながら、お子さんの情操を豊かにする方向で行っていただきたいのが親子タンデム。
例え遠くに行くのが無理でその辺の公園に行くだけになったとしても、子どもは十分うれしい顔をしてくれます。
バイクに乗せてもらうと、行った先でうれしいことが待っている。
そんな風にバイクでお子さんに良い時間をプレゼントするつもりでタンデムすれば、お子さんもずっとバイクが好きでいてくれると思います。
親子タンデムに必要な装備
わざわざ書くまでもないと思いますが、Jr用のヘルメットは必要です。
何はともあれJr用ヘルメット
筆者の場合はアライのSZを選びました。
親子タンデムを長い間している人に「とにかく子どもは寝る」と聞いていたので、首を傷めないように極力軽いものを選んだ結果です。
やはり安いものはいろいろあって、当初の娘の好みもこれとは違うものでしたがこれに落ち着きました。
ただ、後で人に聞くと、フルフェイスを基本とした方がいいとも言われたので、これは目下検討中です。
いずれにしても、値段より機能で選ぶという点では大人用と変わりませんね。
タンデムベルトは必須
お子さんの年齢にもよりますが、基本的に子どもはタンデム中に寝てしまうものです。
なので、単に乗せただけではバイクから落ちてしまうんです。
タンデムライダーズ(TANDEM RIDERS) タンデムツーリングベルト TB 専用タンデムクリップ標準装備 HZ-300
こうしたはツーリングベルトは絶対に必要です。
いくつか安いものもありますが、筆者もこの商品を使っています。
娘も必ずバンバン寝てしまうので、これなしには親子タンデムはあり得ませんね。
この商品はおんぶ紐と違い、お子さんを完全に固定するものではありません。
あくまでお子さんのお着座状態の保持を助けるためのものなので、お子さんがご自分の足でステップに力がかけられる状態でなければ危険です。
筆者の娘の身長は120㎝弱で、しっかりステップを踏ん張ることができています。
車両にもよりますが、この条件が満たせるようになるまではタンデムは待ってあげてくださいね。
バック類を背もたれに
タンデムベルトがあるので、基本的に着座の保持は保たれます。
しかし、ツーリングバックやハードケースなど、背もたれになるものがあったほうがお子さんは楽なようです。
タナックス(TANAX) MOTOFIZZ ミドルフィールドシートバック [可変容量29-40ℓ] ブラック MFK-233
筆者の場合は、娘との密着性をよくするために使っていますが、距離を伸ばした際などは双方の疲れの軽減にも役立ちます。
また、運転者がリュックなどを背負ってしまうとお子さんには顔の前にあって、それがうっとおしいようです。
最初は娘に自分のリュックをしょってもらいましたが、調節をしてもかなりだぶつくのが危険。
なので、総合的に判断して追々揃えながらこの形にしています。
車両や用途に合わせて、背もたれになるバックの用意があるといいですね。
バックの中身は…
先にリストしておくと
- 予備の下着
- パーカーなどの予備の上着
- 風圧に耐える雨具
- タオル
- ウエットティッシュ
- 水筒
- お菓子等
- 保険証&ファーストエイドキット
といったところですね。
予備の下着
また、お子さんの着替えも遊び場で汗をかいた後、そのままにしてしまうと走行風で冷えて風を引きやすくしてしまうので、下着も予備が必要です。
予備の上着
やはりこれらはお子さんの年齢や季節によっても違います。
春秋は寒暖の調整のために、上着を厚めの物、中間のものを両方用意しましょう。
風圧に耐える雨具
筆者の場合はタイチの子ども用のカッパも持っていますが、これは夕方に急に外気が冷えたときなどに、ちょっとした防寒着としても役に立ちます。
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雨天にわざわざ出かけたりはしませんが、いざというときのためにも常備しておくといいでしょうね。
また、これはお子さんが普段来ているものが頑丈ならいいのですが、たいていのものは風圧が考慮されていません。
なので普通のものだと風で走っているうちに敗れてしまう恐れがあるんです。
なのでバイク用でなくとも風に耐えるものを選ぶとよいでしょう。
タオル
これは汗をぬぐうのもそうですが、子どもの場合は何かと濡れたり汚したりするので、長短1本づつ持っているといいでしょうね。
ウエットティッシュ
これは休憩などで手をしっかり洗えない時にさっと取り出せるところにあると便利です。
結構忘れがちなのでしかりリストに加えておきましょう。
水筒
やはりバイクの場合は日にさらされていますよね。
なので走っているときは良いのですが、渋滞などで風を浴びられないと厳しいので、ポーチやバックなどに、ふたの要らないサイクリングボトルなどを用意しておくといいですね。
ELITE(エリート) MAXICORSA MTB CLEAR logo RED 950
お菓子等
子どもも非日常に連れ出されて疲れますから、お3時とは分けて小休止を多くとり、食べ物から退屈を癒せるようにしてあげましょう。
休憩がまめに取れなかったとしても、走行中になめることができるように、キャンディーなどを持っているとだいぶ違いますよ。
保険証&ファーストエイドキット
これはなるべく使いたくないですが、事故以外にも、急におなかが痛くなったり。
子どもはとかくデリケートです。
とにかく何事も「備える」ということが親子タンデムには必要ですよ。
さらに不足な事態に備えて、保険証も大人と子ども分携帯しましょう。
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インカムで子どもの状態を常に把握
走行中は子どもの状態を常に把握していることが必要です。
基本的に寝てしまうことが多いのですが、必要な時に起こしたり、あるいはトイレのタイミングも気にしておかなければなりません。
大人同士ですと、ハンドサインを決めてやり取りすることも考えられるのですが、基本子どもは寝ています。
また声をかけるたびに振り向いたりするのも気が散って危険です。
そのためにインカムは重要なんです。
ペアでいきなりそろえるのはなかなか難しいですが、今ではコスパに優れるモデルもあるので、親子タンデムではインカムを使い法がいいでしょう。
デイトナ(DAYTONA) バイク用インカム COOLROBO EasyTalk3 2個セット
親子タンデム走行上のコツ
タンデムをすると、パッセンジャーがもたれかかり、運転者の上体の自由が奪われて、いざという時の対応が遅れがちです。
なのでまずその体制作りは重要でしょう。
「寝られること」に対応する姿勢づくり
なのでそこは意識して、上体を腹筋で支えながら脱力しハンドルに不要な力がかからないよう注意を保ちます。
用はセルフステアを阻害しないということですね。
そして、5分に一回ないし5kmに一回とペースを決め、呼吸を整えるなどして心身のリラックスを保てるように工夫しましょう。
こうすることによって体の硬直を防ぎ、いざというときの初動を確保することができます。
また先述の通り、親子タンデムでは大人を乗せるのと違い、パッセンジャーの子どもがどんどん寝てしいます。
メットもなるべく軽いものを選びましたが、それでも首を痛めやすいので、頭がなるべくぐらつかないように工夫するといいでしょうね。
背中でこっくりこっくりしているわけですが、筆者の場合は「おっ、来たな」と思ったら筆者がやや背中を丸まるようなかたちを作ります。
写真では上体が起きていますが、実際に娘が寝た時の走行ではもう少し前傾に。
そして、ほんの少し背中にくぼむを作るようなかたちで子どものメットを受け止めるかたちにしています。
もちろん肩から先のフリーは確保してそういう姿勢をつくることを心がけていますよ。
「親子タンデム」路上の注意
ただでさえ親子でバイクに乗っていると良くも悪くも目立つのですが、残念なことに意地悪を仕掛けてくるドライバーも少なからず存在します。
視認性&被視認性の確保を
基本的なことですが、よく見て、よく見られるということが重要ですね。
先述の姿勢を意識して保持し、いま何が来ても止まって見せるくらいな意識を持ちましょう。
視野を広く取っていつも以上の防衛運転に努めていただきたいと思います。
すり抜けは極力避ける
またすり抜けは必要を感じることもありますが、普段すり抜けをするような場面でも、筆者は子どもを乗せている最中であれば極力避けています。
第一にリスクを高めてしまうことを積極的にしないというスタンスが大切です。
それだけでなく、子どもが背中で寝ている最中は不意に子どもの頭の重さでバランスが微妙に変わります。
これに対応する意味でも、親子タンデム中のキワドイすり抜けは避けるべきだと筆者は思います。
駐輪場では
たいてい駐車場の順番待ちをしなくていいのがバイクの良いところ。
ですが、公園などでは他の子どもさんが通る自転車の駐輪場に停めざるを得ない場合があります。
マフラーの熱と自転車の接触に配慮
ちゃんとバイクと自転車とを分けて止めさせてくれるところでは大方問題はありません。
ただ、自転車と同じ場所では特にマフラーの熱に気を遣いましょう。
筆者もよく公園に行きますが、そこがまさに自転車&Bike混合。
自転車で一般な駐輪場に起きざるを得ません。
そこで探すのは原付。
とりあえず原付があればサイレンサーがその原付に並ぶようにXJRの向きを調整します。
それでひとまず熱が冷めるまでの間、小さいお子さんが筆者のバイクの横に子ども自転車で来る心配も半減します。
また、バタバタっと自転車が将棋倒しになっても、直撃は免れるかもしれません。
とにかくこういった駐輪場所では、熱と傷への備えをしましょう。
親子タンデムへの道
筆者も子どもを乗せることについては、周囲の理解を含めこうして相当な段階と準備を経て慎重に行っています。
例えば「家の中でバイクが好きなのはお父さんだけ」ということは少なくないですよね。
実は我が家もそうでした。
それまでバイクの時間は、家族の時間とは切り離されたた時間。
家族に気兼ねしながらバイクに乗るうち、次第に大好きなバイクに乗れば乗るほど家族の中で孤独感を感じるようになっていったんです。
しかし、バイクに乗ることは30年余年ほど思考の基礎となってきたので、だいぶ縮小はしましたが、あっさり生活の中から捨て去ことはできません。
当然ですが反対に、バイクを優先して家族を犠牲にするということも未だに考えたことがありません。
そこで筆者は、バイクの時間と家族の時間とを融合させることを考えました。
最初は家族で参加できるバイクイベントに行ってみたり、バイク屋さんに家族で行ってみたりという環境作りから始めました。
「なぜお父さんはバイクを好きだと思うのか?」
これをそれこそ「組み木細工」のように幾重もの手間と何年物時間を重ねて、家族に共有してもらえる土台をまず築きあげたのです。
そのほか、すでに親子タンデムをしていらっしゃる方からいろいろと情報をいただいたり、タンデムベルトや子ども用のヘルメットを購入するのはもちろん。
二輪車安全振興会講師でベテランモーターサイクルジャーナリストの柏秀樹先生の手ほどきを複数回受けるなど、徹底してライディングの見直しも図りました。
(柏秀樹先生のライディングスクール、オフロード編にも参加)
もちろん講習を受けたから事故を起こさないとは思いません。
むしろ事故に対する恐れがあるからこそ、できる限りのことはやったうえで、最上級の防衛運転に努めながらバイクを子育てのツールとして活かせるようにしているのです。
親子タンデムについてはいろいろな所見をお持ちの方もおいででしょう。
とにかく危険であること、そこを遠ざけるのではなくむしろそこを出発点としてできる限りの備えをすること。
少なくとも筆者はこれが「親子タンデム」をする上での最低限の要件だと思います。
始めに触れましたが、娘とプレイスポットに行けば、必ずと言っていいほど、我々に興味を持った方が声をかけてお見えになります。
今回はそういった方々のために書いてきたのですが、とにかく周到な用意をして、お子さんを第一に考えて楽しんでいただけたらと思います。