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「未来」の中のスーパーカブ
東京モーターショー2017。
「未来の環境・安全」これにどう言う答えを出すのかというのが、「ビヨンド・ザ・モーター」と題されたモーターショー2017の大きなテーマでした。
EVはもちろん、自動運転などITを駆使した高度事故防止技術など、未来に向けたコンセプトカーなどが大きく注目を集め、2輪ブースでも、ホンダが「RIDING ASSIST-e」、更にはヤマハも「MOTOROiD」など、AIを搭載して自立走行可能なバイクロボの展示には驚かされた方も多いのではないでしょうか。
これまでのモーターショーと少し違って見える。
そんな風に思った人も少なくはなかったでしょうね。
確かにこうした近未来的な展示は「凄い」ものでした。
しかしというか、だからこそ、筆者が取材をして一番興味深かったのは、ホンダブースのスーパーカブの存在感です。
4輪2輪を問わず、展示スペースにはEV車やハイブリット車が並ぶ中、ホンダは新型スーパーカブを歴代車と共に展示スペースのセンターに展示。
しかもかなり大きなスペースを使って堂々とした展示ぶり。
懐かしむ人、新鮮味をもって見る人。
実に様々だったと思います。
EVやロボバイク、あるいは大きなロードバイクもある中で、ホンダがここまでカブを大きく扱うには大きな意味があったのでは?
筆者はそう思うのですが、皆さんはどう思われますか?
試練を乗り越え洗練された「あの」かたち
自転車に原動機を付けることから始まったカブ。
「本田宗一郎がもし、大八車にエンジンを付けていたら…」なんてあのバイクマンガでやっていましたが、確かにカブがこの形でなかったとしたら、昭和も平成も今とは違う姿になっていたかもしれませんね。
先代(2014年型)ではライトを角型にし、直線的なデザインを取り入れながら「刷新」が試みられたカブ。
しかし、今回発表された新型は「元の姿を取り戻した」といえるような旧来然としたフォルムになりました。
未来志向の展示が多かった中で、多くの人に親しまれた「あの」かたちが時代を超えようとしている姿には、何か「強さ」のようなものを感じます。
一見「新型です」といわれて遠目で判別するのにはちょっと間が必要な感じですよね。
外見上、変更が解るのは丸目に収まったLEDくらいでしょうか。
角ばった先代譲りのテレスコピック式のフロントサスが、この丸いフォルムに収まっているのも、ポイントですね。
よく見るとメーター周りはすっきりして、スイッチ類も「いま風」に。
走りもしっかり感が増して、使い勝手もかなり向上しているようですね。
例えば50㏄のカブは、卵一つ分くらいの燃焼室の大きさですが、それでもこれまで環境規制を受け続けてきました。
それだけ小さなカブがヨーロッパの規制に合わせて、これまでのカブらしさを保つのは「試練」といってもいいくらい厳しいものだったでしょう。
初期のモデルでは、4.5馬力の高出力を誇り、1リッターで150㎞もの超絶燃費をたたき出した驚異的なカブのエンジン。
今回のモデルではインジェクションを装備しながらも、触媒を装着する関係で、最高出力は3.5馬力になりました。
ハイブリット車などに比べれば十分な値ですが、燃費も105km/ℓとなっています。
色々な規制の中でホンダさんとしても目いっぱい頑張ってリッター100㎞を残してくれたんだと思います。
そこには拍手をするとして「環境規制ってなんだろうな?」と言ってしまったら怒られるんでしょうかね。
ともかくみんなが親しんできたフォルム。
少なくとも昭和生まれの筆者はどこかホッとして思わず言ってしまいます。
「おかえり!!」と。
「昭和」に授けた夢の翼
カブの登場は1958年。
C100型のスーパーカブが最初でした。
今回も堂々としたその姿を、私たちに見せてくれていましたね。
こんなに間近にキレイな「カモメハンドル」を見るとかえって新鮮な気もしてきます。
お蕎麦屋さんや郵便配達。
バイクに乗る人たちの仕事がしやすいように、あるいは女性が乗ってのメカで衣装を汚さないように。
遠心クラッチや樹脂製のエプロン、それに変わらない荷台の高さ。
長く親しまれる「カブのスタイル」はそうした人々への細かな配慮が生んだデザインです。
人々に役立つものを造って、国を豊かにしたいという本田宗一郎氏の「夢」。
この夢は翼になって、戦後から華麗に立ち上がる人々の可能性を大きく広げ、豊かな国の成長をも支えたと言えます。
原付の125㏄化はあるのか
章題の通り、50㏄の原付一種の市場が急激に冷え込んでいる中、免許制度も改正し、原付の主軸を125㏄へ移す議論が省庁レベルでもなされていると言います。
先代からカブも110㏄が主軸になった感がありますね。
それを象徴するかのように今回はホンダは、モンキーと並んでカブの125㏄モデルを「コンセプトモデル」として展示していました。
筆者もそうですが、これをみると原付の125化に王手がかかったという印象を受けますね。
LEDやABSといった現代装備をそなえ、キャストのホイールも充実した走りを予感させますね。
しかもそれらをカモメハンドルを持つ初代C100のフォルムに収めたところはオシャレです。
「乗りたい」「欲しい」という人も相当でしょう。
今回こうして125㏄をチラ見させてくれたわけですが、これで原付は完全に125㏄へと「進級」してしまうのでしょうか?
多くの見かたはそうですが、あえて今回50㏄のカブをリニューアルさせているところに、意味があるように思うんです。
未来に授ける夢の翼
先述のように、カブはこれまで多くの人々の可能性を広げてきました。
それは国内にとどまらず、世界の国々に発展への夢と希望をもたらし、今もどこかで誰かの明日を支えています。
世界で愛され、今年1億台を達成したカブ。
(スーパーカブ 一億台記念車)
50㏄のカブはなくなるのか?
筆者が考えるに、カブは当分50㏄が残ると思います。
理由として考えるのは、3ない教育の終焉。
地方では、数時間歩かなくては、バス停にすらたどり着けない高校生たちが、少なからずいるんです。
今も原付はⅠ6歳から簡単な講習で乗ることができます。
これは、日本が貧しかったの集団就職の時代、中学を卒業したばかりの「金のたまご」達が配達業務につけるようにと配慮した名残です。
地方の若者だけでなく、豊かになったと言われる平成の世の中にも「若者の貧困」という問題があります。
なのでこれまで通り安価な講習で免許を取得できる50㏄の存在は有用です。
多くの人々の記憶にあるようにカブという乗り物は、若者を非自由から解放し、未来の夢へとつなげてくれる「夢の翼」なのです。
だからこそ、ホンダは今回もしっかりと新型を発表し、その立ち位置の乗り物を残してくれたんだと思います。
まとめ
お伝えしたように、今回のモーターショーはEVへの転換をどう迎えるか。
これに応えるモデルが世界のメーカーから展示されました。
そんな中、乗り物の原点を問うかのように、小さなカブが大きな存在感を放っていました。
今回ホンダはEVとハイブリットのPCXを来季に向けて発売すると明言しています。
「未来はもうすぐそこまで来ているんだな」そんな気にもなってきますね。
ご存知の方も多いと思いますが、前回2015年のモーターショーでは、EVの「CUBコンセプト」が展示されていました。
今回その進化形を期待した穂とも多いとは思いますが、残念ながらそれはありませんでしたね。
しかし、そのスタイルは、不思議と古さを感じない昔ながらの身近なスタイルのまま。
カブというのはいつも弱い立場の人に翼を授けてきた存在。
きっと125㏄になっても、EVの時代が来ても、それは変わらない、いや変えては欲しくないことだと筆者は思います。