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バイク+鉄道=地域貢献活動という「風おけ」
「風が吹けば桶屋が儲かる」
これは「風が吹くこと」と、「桶屋が儲かること」の例えのように、本来全く縁遠い事柄の間で、意外な相乗効果が生まれる様子を表しています。
皆さんご存じのことわざですね。
最近ではこれをワンフレーズで「風おけ」なんて表現することもあります。
さて、そんな「風→桶屋の繁盛」は、まず風が吹かなければ始まらないわけですが、先日千葉県の大多喜町で、とある大きな風オケの「風」が吹き始めましたよ。
その「風」というのが「走れ!バイクトレイン」と名付けられたイベントです。
このイベントが志すのは、
「バイク(自転車も含む)でツーリングをすると、児童福祉や地域おこしに貢献できる」
という仕掛けをつくり、バイクツーリングの文化として根付かせることなんです。
「え、なんでそれがバイク+鉄道なの?」
そうそう、そこが風おけなんですよ。
「ライダー+サイクリスト+鉄道」という仕掛けづくり
今回、このイベントを主催したのは、一般社団法人・ピースメーカー。
この団体は、地元大多喜町の人気ライダーズカフェ「BIGONE」のオーナー道家尚巳さんが、
これまで長年にわたって行ってきた、バイクによる福祉貢献活動「オレンジライダーズ」を広範化させ、さらにこれを千葉の地域おこしに結び付けたいと、今年4月に立ち上げた法人です。
BIGONEはバイクライダーだけでなく、サイクリストの間でもにも人気のツーリングスポット。
そうした縁から今回の「バイクトレイン」は、
千葉の外房を中心にサイクリングの休憩拠点を増やしながら地域振興活動を行っている地元サイクリスト団体、「外房サイクルサポーターズ(以下SCS)」との共催となっています。
今後両団体は互いに協力し、「ツーリングによる社会貢献活動」を行政を巻き込みながら千葉県内でより広範に進めていく方針。
今回の「バイクトレイン」はそのためのキックオフイベントなんですね。
さぁ、みんなで風を起こそう!
「バイクトレイン」が走ったのは、千葉県夷隅(いすみ)エリアを走るいすみ鉄道。
「い鉄」の愛称で親しまれるこの路線は、まるで鉄道模型のジオラマに入り込んだような素朴な風景をリアルに体験できるため、ハマる人続出の人気の路線です。
イベント開催日は、令和元年7月14日(日)。
今回、「バイクトレイン」はこの全線を使ったイベント列車として運行されました。
この日は長引く梅雨のおかげで、蝉の声もどこへやら。
そこにあるはずの夏空もお預けの空模様でした。
それにもかかわらず、遠方から夜通し走って駆けつけてくれたライダーや、
高価なロードバイクが濡れるのもいとわず、幾重もの山を健脚で越えながらやってきたサイクリストの姿あり、
普段は人通りのまばらな大多喜駅前も、この日は多くバイカー(2輪愛好者)たちで賑わいました。
出発前には式典が執り行われ、地元大多喜町長もご臨席。
左から、大多喜町のキャラクター「おたっきー」・飯島勝美町長・いすみ市のキャラクター「いすみん」
飯島勝美町長は、「ツーリングでますます町を盛り上げてもらえるのはうれしい。」と歓迎の意を述べられました。
そしていよいよ、「バイクトレイン」が大多喜駅に入線。
列車種別札の「貸切」の文字が参加者の心をワクワクと躍らせて、定刻の11:04に出発進行です。
車内はバイクトレイン特別仕様。
すべてのは車内広告はこの日のために特別に用意されたもので、これまで、そしてこれからの「バイク+社会貢献活動」について書かれた素敵な広告たち。
中でも当日、私が個人的に驚いたのはこの2枚。
実は先日も、モーターサイクルナビゲーターの中で、このイベントの告知をさせていただいたのですが、
この中で使った「幸せの黄色い列車」というフレーズが大きく使わていて、しかも右の中づりには、私がこれまで書いた記事をいくつかQRコードでご紹介くださっていていました。
(いやぁ、まことに恐縮です…。)
「ライダー+サイクリスト+鉄道」で仕掛ける壮大な風おけのロジックとは?
「ツーリング」と「社会貢献」。
縁遠かった2つの事柄を結び付け、それをより広範にひろめながら地域に根付かせていくための第一歩がこの「バイクトレイン」。
そのロジックは車内で徐々に明かされていきました。
RUN FOR KIDS! 子どもたちのために走る
車内には、大型スクリーンが設置され、ピースメーカーの道家さん、SCS代表の内野美佐さんらがこのイベントに至る経緯や、今後の計画などについて説明してくれました。
その中で特筆すべきは、毎年11月3日にバイクツーリングを通して行ってきた児童虐待防止の啓発活動を、今年からはサイクリストも参加できるようにしたこと。
そして、参加人数を限定してきたこれまでの活動を改め、多くのライダーやサイクリストが気軽に楽しめるようポイントラリー形式にすること。
さらには、コース上に協賛店を募りながら休憩拠点を整備し、児童虐待防止のアピール力を高めながら地域の活性化につなげていく計画などが次々と発表になりました。
車内には、オレンジライダーズ活動を応援してこられた千葉県児童福祉協議会の森田雄司さんも来賓に招かれていました。
「児童虐待は増加の一途、まずはこの現状を多くの方に知ってもらうことが大切です。
そのアピールを、機動力のある自転車やバイクで形にしたのがオレンジライダーズ活動。
まずは沿道の人々に虐待について考えてもらえるきっかけを作ることが大切なので、今後さらに幅広い活動として発展していくことを期待しています。」
と活動の広範化に期待を寄せられました。
ちょうどそのころ、バイクトレインはオレンジライダースが毎年訪問している児童養護施設前を通過。
私もこの活動に参加しているので、丘の上から手を振る子どもたちのけなげな姿を思いだしながら、この時は目の奥が熱くなりました。
自治体もツーリングによる地域活性化に期待
ちょっとここで、バイクトレインがどんなところを走っていたのか、地図で示しておきましょう。
いすみ鉄道(以下「い鉄」)は、千葉の房総半島の南東部にある緑豊かな上総中野(大多喜町)の山の景色と、海の幸豊かな大原駅(いすみ市)をつなぐ第3セクターのローカル線。
先述の通り、大多喜駅では飯島町長が歓迎の意を表されているわけですが、途中駅からは太平洋を望む町、いすみ市の太田洋市長が乗り込みます。
太田洋市長は参加者に向け、
「いすみ市には朝市で新鮮な魚介を食べられる大原漁港があり、伊勢海老も名産。
さらに8月になれば特産の梨がたわわに実るので、夏のツーリングでは是非、いすみ市の味を存分に楽しんでほしい!」
と、いすみ市の観光を猛アピール。
恥ずかしながら私もあまり知らなかったのですが、アクアラインを使えば都心から約1時間半のところに新鮮な魚介の港があると聞けば、食い気ライダーの触手も動きますよね。
市長一押しの梨も楽しみです。
そういえば、↑いすみ市のゆるキャラ「いすみん」の頭って、房総の海に伊勢海老、そして椿の花と梨がモチーフなんですね。
市長の熱い歓迎に盛り上がったバイクトレインは、海側の終点である大原駅に到着。
今度は再び山側の上総中野駅を目指しました。
お昼を迎えた車内では、参加者待望のBIGONEバーガーが振る舞われました。
BIGONEバーガーは、100%和牛でステーキのように分厚いパティーと、野菜から香辛料に至るまですべてが自家製のスペシャルバーガー。
大多喜のBIGONEといえばその味は、すでに遠方のライダーにも知れ渡っているので、このお店もしっかり地域貢献に役立っているのは間違いありません。
当サイトに投稿中で北海道の弾丸ライティングライダー板倉君も「まる済」です。
なぜ「バイク+鉄道」なのか?
さて、バイクで児童福祉に貢献しながら、それを地域おこしに役立てていくという「風おけ」のロジックは、ここまでで多少ご理解いただけたのではないかと思います。
しかし、それが鉄道とどう絡んでいくのか?
それはこの後しっかりとわかってきますよ。
今回、このイベントに多大な協力をされたいすみ鉄道の古竹孝一社長もバイクトレインに参加。
古竹社長は、
「皆さんのなかで、いすみ鉄道に乗ったことがあるという方って、どれだけいらっしゃいますか?」
(車内で手を挙げた方はわずか。)
「ハハハハハ、そうなんですよね、実は私も社長に就任して数か月しかたってないので、まだ10回くらいしか乗ったことないんですよ。
うちの列車黄色いんですけど、実はまっかっかなんです!」
(車内爆笑)
「いろいろ楽しい策を練っているところですが、今回こうしてバイカーの方々がいすみ鉄道を知ってくださって、沿線を盛り上げてくださるというのは本当にありがたいことです。
鉄道も地域の活性化のためにできることはいろいろあるのではないかと模索しているところなので、私たちも地元企業としてみなさんのバイクによる地域振興を応援していきますよ。」
と、楽しいお話で車内を沸かせてくれました。
この後、主催者の道家さんから、
「い鉄によるバイカーへの応援は、このイベント短日で終わる話ではない」
という説明がありました。
「い鉄とバイカーのコラボは、『目に見える地域活性化活動』を具現化させるための手段です。
例えば、「バイクの町」をうたった町があったとしたら、自分たちバイク乗りがどう歓迎されているのかを目に見える形でそれがわかるとありがたいものですよね。
なので、自分たちがバイクで街を盛り上げていくとしたら、まずは『来てよかったなぁ』と思える体験がそこには必要だと思いました。
そこで考えたのが、「い鉄にピース」というものです。
例えば皆さんはツーリング先で対向車線を走ってくるライダーにピースってされたことがあると思います。
これを、い鉄に向かって「がんばれー」なんて言いながらやってみてください。
するとこうやって、運転手さんが警笛で答えてくれるんです。
これは都市部の鉄道ではできないことで、いすみ鉄道さんだからお願いできたこと。
なのでこれを、いすみエリアのツーリングならではの特色にしたいんですね。
実は今日は、沿線(許可を得た農道)でこの列車と並走してもらい、デモンストレーションをやってみることになっています。」
進行方向右手ということで、参加者が右の車窓に鈴なりになっていると、
沿道に2台のバイクが現れて、並走しながらピースサイン。
すると同時に、列車が「ふぉ~ん」と警笛で答えます。
今回のデモンストレーションで、並走時間はわずか22秒ほど。
しかし、これが最も車内が盛り上がった瞬間でした。
「い鉄」は1時間にだいたい1本の割で運行されていているため、沿線で出会えればラッキー。
そのことから「幸せの黄色い列車」と呼ばれています。
都市化の中で忘れ去られたような風景に出会える「い鉄」なら、沿線でバイクと一緒の風景はかなりのインスタ映えになること間違いなし。
「い鉄にピース」で列車が答えてくれる。
これ、やってみるとなかなか面白いですよ。
行ってみよう!やってみよう!
ひとしきり盛り上がった車窓には、徳川家康の家臣・本田勝昭ゆかりの大多喜城が見えてきました。
(※現在の城は- 昭和50年に千葉県立中央博物館大多喜城分館として再建されたもの)
大多喜には甲冑祭り(大多喜お城まつり)というあでやかなお祭りもあって、今年(令和元年)は10月12(土)・13日(日)に行われる予定。
一般から武者行列の参加も受け付けているので、秋口にはぜひこちらにも足を運んで参加されてみてはいかがでしょうか?
今回取材をして気づいたのは、千葉にはまだまだ知られていない見どころたっぷりのスポットがいっぱいあるということ。
いすみエリアには特にこうした魅力あふれるところが多いので、今一度この地域のツーリングを味わっていただければと思います。
そして、サイクリストも加わって新しくなる「オレンジバイカーズラリー」。
今年は11月17日(日)から開催される予定です!
詳細は、内容が固まり次第追ってお知らせしていきますが、「社会貢献」と固く考えず、お仲間を誘って気軽にご参加ください。