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ライダーによるソーシャルアクション
皆さんは11月はが児童虐待防止強化月間で、児童虐待防止のシンボルであることをご存知でしょうか?
毎年11月3日に行われている「オレンジライダーズ」。
これは、それを世の人に広く知ってもらうためのライダーたちによるソーシャルアクションです。
筆者は児童養護施設に長く勤めていたこともあり、バイクで彼らの役に立てるならと、今年も参加させていただきました。
今、マスツーリングを通じたソーシャルアクションは各地で盛んになってきていて、どこも活況を呈しているところです。
一方で「最近のバイクはすぐ群れる」などと明後日の方向から揶揄する人がいるもの事実。
確かにバイクはソロでの楽しみもあるものです。
しかし、バイクをきっかけにライダーが集まることで生まれるプラスの働きもあり、それは社会にとって大きな力になるもまた事実。
今回は、ライダーによるソーシャルアクションについてお伝えしながら、児童虐待防止についても関心を深めていただきたいと思います。
オレンジなライダーたち
このオレンジライダーズは、ネット上のバイクコミュニティー「NO BIKE NO LIFE」が主催するトイ・ドライブツーリング。
千葉県と千葉市の行政による児童虐待防止月間「オレンジリボンキャンペーン」の一環として行われる公式行事であり、今年で3回目を数えます。
「トイ・ドライブ」というと聞きなれない言葉かもしれませんね。
これは一般的な意味として「子ども達のためにおもちゃを集め、施設や病院などにそれを届ける活動」を言います。
オレンジライダーズは、千葉県でマスツーリングで児童虐待防止のPRを行いながら、児童養護施設へ訪問してお菓子などをプレゼントする活動を行っています。
今年は約60台のバイクでライダーが集まり、遠くは東北・宮城からも参加者が集いました。
主催者もルートの下見や操列方法の確認、さらには地域や施設との連絡など、安全を第一に多方面の打ち合わせを綿密に重ねながらこの日を迎えています。
朝日の中で行われた主催者スタッフの皆さんによる走行前説明。
毎度この時は彼らのピリリとした緊張感が伝わって来ます。
↑出発式で千葉市児童家庭局の方に児童虐待の現状などの説明を受け、参加意識を新たにする参加ライダーたち
一行は千葉市庁舎前で行われた出発式の後、成田方面・一宮方面の2班に分かれていくつかの児童養護施設に向けて出発。
児童虐待防止PRという趣旨を忠実に全うするため、参加者には事前に騒音に対するモラルなどが呼びかけられ、爆音車で参加するライダーはいません。
それでも、長く続くバイクの走列は否が応でも注目を浴びます。
ただ、パレードも兼ねての走行なのでこれは狙い。
人々が目を向ける先には、「STPO CHILD ABUSE!千葉県児童虐待防止キャンペーン」と書かれたオレンジのベストを身につけた一団が目に入るわけです。
。
私たちが集まって走っているのは、カッコつけるために走っているのではなく、ここに書かれた通り児童虐待防止を訴えるというそれ一点のもとに走っているのです。
189(イチハヤク)を知ってほしい
児童養護施設に向かう道すがら、一行はいすみ市の公民館で行われているお祭り「岬公民館文化祭」にお邪魔しました。
このお祭りへの参加も、もはや毎年のルーティーンコース。
地域の方々も「オレンジのバイクの人たち」と我々が来るのをわかっていてくれていて、手を振りながら笑顔で迎え入れてくれます。
ここでは、訪れている地域の方々にパンフレットとPRの書かれたマスクを手渡し、児童虐待防止の啓蒙活動を行いました。
「189は電話番号、近所で異様な子どもの泣き声が続いたり、普段から気になることがあったらためらわずに電話してください。
児童相談所員が72時間以内にその子の安否が確認してくれる命の番号です、イチハヤクと覚えてください!」
そう言いながら夢中になって配るうち、袋いっぱいにどっさり渡されていたチラシやマスクも、あっという間になくなってしまいました。
みんなで配り歩き、広いお祭り会場でしたが、手渡そうとする人に「あ、もうもらいましたよ」と言われることも多くなったので、まんべんなくPRで来た様子。
PRを終えた一行は、お祭りで売られている食べ物で昼食をとり、地域振興にもちょっとしたお手伝い。
その後いよいよ子どもたちの待つ児童養護施設に向かいます。
子どもたちから力をもらう
児童養護施設はかつて戦災孤児が多く預けられていたこともあり、「孤児院」と呼ばれていたことが多いのですが、現代では親のいない孤児はほとんどいません。
筆者が現役の児童指導員だったころは、親の就労や疾病などが主訴として多かったのですが、今では育児放棄や児童虐待を主訴とする入所が圧倒的に多くなっています。
入所しているのは2歳から18歳までの子どもたち。
家として暮らす1グループは、大体12人から多いときで18人。
児童指導員さんと保育士さんが仕事とプライベートの境なく彼らの生活をサポートしていますが、一般の家庭の様にいつも決まった大人を独占できないのが子どもたちには辛いところです。
なので、一見ではなくて定期的に来てくれる来訪者は多くの子たちにとって大歓迎。
バイクの音が聞こえると、入り口前から身を乗り出して、大手を振って迎えてくれる子もいます。
一通りご挨拶を済ませると、みんな好みのバイクのもとへ寄ってきました。
↑千葉テレビニュースで報道された映像より
筆者はこの日ヤマハさんからFJR10300ASの広報車をお借りして参加したのですが、実は当日用にこの車両をお願いしたのは電動スクリーンで遊んでほしかったから。
願った通りみんな喜んでくれました。
何度か参加するうち、「あ、あの子大きくなったんだなぁ」と思ったり、あちらも「おじさんまた来たね」と顔を覚えていてくれたり。
ともかく、お客さんが来るとき用のきれいな服を着てみんなが待っていてくれるんです。
現役当時を思い出すのもありますが、子どもたちやそれを着せてくれている職員さんたちの気持ちが伝わってきて、毎度子どもたちの笑顔に目を熱くしながら力をもらっています。
最後はお菓子の袋を全員に手渡して訪問は終了。
子どもたちの笑顔に見送られながら、それがいつまでも続くようにと、心から願いつつ施設を後にした一行でした。
最後は千葉県庁で県健康福祉部児童家庭課の皆さんとともに解散式。
子どもたちからもらった笑顔のパワーを胸に、参加者は各々の日常へと帰って行きました。
Together with him
「NO BIKE NO LIFE」ではこのオレンジライダーズのほかにも、クリスマスには全員がサンタに扮してトイ・ドライブを行うサンタRUNを行うほか、
夏には施設の子どもたちを招待してサマーキャンプを行ったりもしています。
活動の一つ一つはお菓子を配ったりするだけかもしれません。
でも、子どもたちが本当に欲しいのはお菓子ではなくて、自分に味方になってくれる人であり、その人と一時でも過ごせる時間が定期的にあること。
元施設職員として、NO BIKE NO LIFEの活動をありがたく思うのは、ありがちな名誉目当ての慈善団体とは違って、子どもたちに「ちゃんと寄り添う姿勢」があることです。
筆者が児童福祉を学んだ大学の建学の精神は
"Together with him"〔彼らの為にではなく彼らと共に〕
というものでした。
↑わが学び舎淑徳大学
つまり、「上からくれてやるように施すものを福祉とは呼ばず、常に対象者に寄り添って必要を考えろ」ということ。
施設入所児の一番大変なことは、基本的に施設措置が18歳を上限であるため、以降は施設を卒園・自立を余儀なくされることです。
NO BIKE NO LIFEはの中には商店や企業を経営する人もいて、卒業を前にした入所児の就労を援助してくれる人もいます。
もちろん、全員がそれをできるわけではありません。
できる人ができるだけのことをするのが大事なんです。
視野を大きく持てば、直近、子どもたちに必要なことは、児童虐待の防止を世の中に訴えていくこと。
バイクによるソーシャルアクションは、少なくとも児童虐待が増え続けていることや、児童養護施設に暮らす子どもたちの存在を多く人に認識してもらうを手段になります。
バイクに乗ることで、陰ながら子どもたちの背中をそっと支えていくことができる。
皆さんの街でも、そんな優しい志のツーリングがグループがあったならば、是非そこに善意を持ち寄って欲しいと思います。
私たちが走る理由
正直に言ってしまうと、筆者は今回一参加者に徹して取材・執筆は控えようと思っていました。
それは、「自己満足だ」、果ては「暴走行為だ」などという心外なコメントに侵されたくなかったからです。
それでも書こう、「いや書かなくては」と心を振り絞ることになったのは、主催者の方や参加されている皆さんの気持ちの熱さのおかげ。
オレンジライダーズを主催された「NO BIKE NO LIFE」の代表の道家さんは、
「ガソリンをまき散らすならそのガソリン代を寄付したらどうだ!という人もいる。
しかし、そんなのはもうやっている。
増え続ける児童虐待に対して、自分たちバイク乗りだからできることがあるんだ。
それは児童虐待防止の啓発、誰が何と言おうともこれは続けていく必要がある!」
と力を込めて話されていました。
厚生労働省の統計によると平成27年度中に、全国208か所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は133,778件(前年度比1万1203件増)。
これまでで最多の件数となっており、悲しいことに昨年だけで50人近くの子どもたちが虐待によって命を奪われています。
ただ、この数字や事件として明るみに出た部分は本当に氷山の一角。
何の届け出もされず、未だ発見にも至っていない危険な児童虐待は身近に潜在しているのです。
しかし明るい兆しは、児童相談所への虐待相談経路に、警察等のほか、近隣知人・家族・学校等からの通告が多くなっていること。
もちろんNO BIKE NO LIFEの活動だけの効果ではありませんが、参集力と機動力のあるバイクで「189(イチハヤク)」の番号を啓蒙することには意義があるんです。
児童虐待に危機感を抱いた人々が、バイクに乗ってそれぞれの立場で参集しているのがこのオレンジライダーズ。
「Run For Kids!」が私たちの合言葉です。
さらに多くの子ども達のもとへ
「NO BIKE NO LIFE」の代表の道家さんはさらに、
「11月3日に限ってしまうと、せっかく参加したいと思ってくれた人がいても参加できない場合があります。
なので、来年からは、11月一カ月を通したラリー形式にしようと思っているんです。
例えば今週は成田の施設に行って、来週は館山というように、いくつかのコースを用意して、やれる人にはコンプリートしてもらう。
そうすれば、参加する人にもさらに楽しんでもらえるし、広範囲に虐待防止のPR効果が期待できます。
何より多くの子どもたちのもとに行って一緒に楽しむことができますからね。」
と、次回への意欲を滲ませていました。
行政からも「全施設を回ってほしい」という要望があったそうですが、これなら多くの要望に応えられそうですね。
ライダーはアウトローではない!
筆者は以前、今年の8月に行われたバイクラブフォーラムについてお伝えしましたね。
ここではバイクツーリングと地域創生等が議題となり、東北復興支援ツーリングやラブジアースなども話題になっていました。
これらの話題の後、総評に登壇したヤマハ発動機の日高社長は、
「良くなってる!ライダー(の社会的イメージ)はもはやアウトローではない!」
と満面の笑みでフォーラムを締めくくられました。
主にそれを狙ったものでないにせよ、NO BIKE NO LIFEの活動は間違いなくユーザーによるバイク使用環境浄成のモデルアクト。
8月に日高社長の言葉を聞きいた時、筆者は真っ先に「オレンジライダーズ」を思い出していました。
バイクで子どもたちの笑顔を増やしていけるよう、筆者はこれからもこの活動を応援していきます。
車両協力;ヤマハ発動機販売株式会社