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トランポ要らずの450ccモト
2018年8月23日、ホンダはオフロードバイクのCRF450Lを9月20日から発売すると発表しました。
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このCRF450Lはモトクロスマシン直系のバイクです。
基本的に450㏄のコンペティションマシンは公道走行不可。
それがトランスポーターに積むこともなく、高速道路を自走してコースや林道はもちろん、ツーリングまでこなせてしまうとなれば期待値は上がりますよね。
海外では一足早く発表されていたので、国内での発売を待ち望んでいたという人も少なくはないでしょう。
しかし、いざ国内で発売されてみると、税込み1,296,000円という価格に24psと低く設定された最高出力。
これが早くも大きな物議を呼んでいるところです。
今回はそのCRF450Lのデザインや諸元内容を見ながら、「この価格と馬力をどう受け止めるか」について考えていきます。
まずは外観を見てみよう
全体のデザインはさすがにレーサー然として、シートから延びる直線的なラインには、ビッとした緊張感を感じます。
特にフロントデザインは秀逸。
細身のLEDウインカーが縦横にきりっとした印象を与えています。
中でもLED縦2眼のコンパクトなヘッドライトは非常に斬新。
CRF450Lのマスクを精悍で個性的なものに見せてくれていますね。
また、レンサル社のハンドルバーとハンドルパットを標準で装備。
ポジションの調整も簡単にできるよう機能も、見た目と合わせてうれしい装備だと思います。
また、マスクの中にはシンプルなデジタルメーターが。
無駄なものがないというか、実にすっきりしていていいですね。
そして、シュラウドはタンク後端にかけて車体に直線的なイメージを与えています。
この部位分は、CRF450Rのイメージを継承し、タンクの存在を目立たなくしているのが素敵です。
また、ここに貼られているロゴデカールはカバーと同型の成型になっています。
これはスチーム洗浄や摩擦を受けても容易に剥がれないための工夫。
走ったあとのケアのしやすさまで考えられているのはありがたいですね。
最後に、テール回りのデザイン。
ここもスッキリとまとめられています。
フロントフェンダーからつながる直線的なイメージの中によく調和していますね。
CRF450Lは、全長2,280㎜・全幅825㎜・全高は1,240㎜。
ちなみに、CRF250Lは全高2,195㎜・全幅815㎜・全高1,195㎜なので、数値的には250Lより若干大きい程度。
まだ、実車にはお目にかかっていませんが、実際には全体の迫力から、もう少し大きく見えるかもしれませんね。
リーガルなレースマシン
CRF450Lの「L」というのはLegal、つまり遵法という意味。
ですからCRF450L(以下L)は、市販オフロードレーサーCRF450R/RX(以下R)を遵法(公道)仕様にしたということなんですね。
とはいえ2台を比較すると、単にレーサーにナンバーを付けたというほど単純なものではないことがわかります。
シート高はオフ車の中でも高め
CRF450R
CRF450L
こうしてRとLを比べてみると、本当にRに保安部品を付けただけのように見えなくもないですね。
しかし、Rのシート高は960㎜もあるわけで、そのまま公道にというのはさすがに厳しいシート高です。
Lでは、シート高を65㎜下げた895㎜に抑え、公道での走行に配慮しています。
ちなみにCRF250Lのシート高は875mm。
こちらにはシート高を830㎜に抑えたローダウン仕様もあるくらいですから、895㎜はかなり気合を入れて乗るシート高だといえるでしょう。
専用設計で巡行性をプラス
さらにRとLの2台を比べると、フレーム形状やキャスター角にも違いがあるのがわかります。
その部分をクローズアップしてみましょう。
上がRで、下がLです。
フレーム形状とキャスター角の違い、お分かりになりますでしょうか?
公道用にフレームを再設計
2台のキャスター角を諸元表で比較すると(R;27°22´ →L;29° 30′)。
RよりLの方が約2°ほどキャスターを寝かせて、直進安定性を増そうとしているのがわかります。
さらに、フレームそのものにも違いがあるのがわかりますね。
特に、Lの方がピボット付近の角度がややきつい感じになっています。
Rでは5速ミッションなのですが、Lではミッションが6速。
Lのフレームはこの6速化に伴って再設計されているのです。
CRF450Rをベースとしながら、高速道路走行での巡行性を考慮して大胆な変更が施さたCRF450L。
恐らくRとLでは、乗り味もかなり違ったものなのでしょうね。
レーサーにナンバー?だけじゃない装備たち
チタン製タンクを持ち、バッテリーもリチウムイオンバッテリーを搭載するなど、徹底的な軽量化の手法はRと同様。
しかしチタンのタンクも容量を6.3から7.6リットルに引き上げたほか、サイレンサーなども環境に配慮しキャタライザーを装備します。
左右分割式のラジエーターには電動ファンを新たに設けるなど、Lには公道走行に配慮した専用設計が随所にみられます。
Rの車両重量112㎏に対してLは131㎏。
こうした専用設計で車重は19㎏増量。
しかし、19㎏という数字に、「なんとか20㎏未満に抑えたよ!」という開発担当者の声が聞こえてきそうです。
24PSをどう捉えるか?
エンジンはRと同じく、1本のカムで4本のバルブを動かす「ユニカムバルブトレイン」という機構を採用。
見るからに低フリクションで、軽量。
これならアクセルレスポンスの鋭さが期待できそうですね。
しかし冒頭にお伝えしているように、このエンジンの最高出力24ps。
そこだけを見ると、これはCRF250Lと同じ数値です。
CRF250L
「なんだ、450㏄でこんなに高いバイクが250と一緒かよ」
そういう方のために、もう少し踏み込んだ出力の比較をお目にかけましょう。
CRF450L | CRF250L | |
総排気量(cm3) | 449 | 249 |
最高出力 | 24ps/7,500 | 24ps/8,500 |
最大トルク (N・m[kgf・m] /rpm) |
32[3.3]/3,500 | 23[2.3]/6,750 |
内径×行程(mm) | 96.0×62.1 | 76.0×55.0 |
圧縮比 | 12.0 | 10.7 |
車両重量(kg) | 131 | 144 |
さて、これをどう見るかなのですよね。
確かに、450Lと250Lの最高出力は24PSで同じです。
しかし、その24psを250より1000回転手前で出しているのですから、この時点で立ち上がりの速さというのが大体想像できます。
そして最大トルクも、250よりもかなり低い回転数で出ていて、相当野太い押し出し感があるのではないかと思います。
またCRF450Lは超ショートストロークエンジン。
今どきのスーパースポーツバイクの圧縮比が大体13.0ですから、CRF450Lの圧縮比12.0もかなりのものです。
先述しましたが、450Lは250Lより一回り大きな車格を持っています。
しかし車重を見ると、なんと450Lの方が13㎏も軽いではないですか。
オフ経験のある方ならお分かりだと思いますが、この車重にしてこのトルクは結構なじゃじゃ馬。
車格も大きいので、マシンをしっかりとホールドするのにも相当なスキルが必要だと思います。
「24ps」と一口に言っても周辺の数値も一緒に見ていけば、決して同じではないということがお分かりいただけると思います。
ホンダのCRF450L紹介HPには、
「トレイルと公道での扱いやすさを追求」
という文字があります。
Rの場合は完全なコンペティションモデルなので、より瞬間的なパワーが求められます。
これに加えてLでは、公道走行の中で幅広い走行ニーズに応える必要があるわけです。
控えめなピークパワーはRの素性と公道での扱いやすさのバランスをとるためのものでしょう。
そうしたことから考えて、CRF450Lは数値で判断する以上に、乗り味に納得できる1台なのではないかと思います。
CRF450Lの立ち位置
CRF450Lの年間販売計画は500台。
つまりレギュラーモデルというよりは、CBR1000RR SP2のような限定モデルに近い扱いですね。
ネットの中では、「税込み1,296,000円で24psかよ」という書き込みが多く見られます。
ですが、この立ち位置を考えれば、価格はまだ良心的な方だといえるでしょう。
また、「アフリカツインが1,382,400円で買えるのに、これは無いな…」というような意見も散見されます。
ザックリ見てしまえば、確かに悩ましいところですよね。
しかしバイク選びとしては、そうした数値よりも、
「その乗り味が何を叶えてくれるか?」、言い換えれば「何をしたくてそのバイクを求めるか?」
ということが重要だと思います。
CRF250Lのように軽快で手ごろなバイクももちろんいいですし、アフリカツインのように質実剛健差を求めるのもいいでしょう。
しかし、
「450ccのエンジンを積んだ軽量なモトクロッサーで公道を力強く駆け抜けたい。」
この願いをかなえてくれるマシンは国内で正規には存在しなかったわけです。
確かにピークパワーは抑えられているものの、CRF450Lはこれまでなかった立ち位置にあるバイクだといえるでしょう。
異例のメンテナンスサイクル
ホンダのCRF450Lの「タイプ・価格」のページには、メーカー2年保証の適応条件として、以下のようなメンテナンスサイクルを守るよう注意書きが添えられています。
エアクリーナーエレメント | 6ヵ月毎に点検、3年毎に交換 |
エンジンオイル、オイルクリーナー | 1,000km毎、または4ヶ月毎に交換 |
フューエルフィルター | 3,000km毎、または1年毎に交換 |
冷却水 | 3年毎に交換 |
吸気バルブ/排気バルブ、ピストン、 ピストンピン、ピストンリング |
30,000km毎に交換 |
クランクシャフト、 クランクシャフトベアリング、 カムチェーンテンショナー |
30,000km毎に交換 |
トランスミッション | 30,000km毎に点検 |
点火プラグ(イリジウム) | 30,000km毎に交換 |
エンジンオイルやエレメント類の交換ペースが異様に早いことに加え、30,000㎞でエンジン内部をほぼ入れ替えろという内容になっています。
オン・オフを問わず、数レースごとに使い切るシビアな設計のコンペティションマシンでは、走行時間に応じて重要部品を交換するというのは普通の話。
しかし、Rでは2本だったピストンリングを、Lでは3本に増やして耐久性にも考慮されているはずです。
それでも、このメンテナンスサイクルが要求されるのは、公道仕様車としては異例。
確かにR直系であることを考えれば、致し方ないところかもしれません。
ただ、この点はやはり公道仕様車として、もう少しユーザーに歩み寄ってもよかったのかなという気もしますね。
まとめ
価格的な面もありますが、やはりメンテナンスの問題は大きいですね。
筆者には、かつてヤマハのYZF-R7に乗っていた友人がいます。
R7といえば、キットパーツを組めば8耐を戦えるくらいの公道レーサー。
車体も450万~500万円とかなり高価なものでしたが、プラグも代替品のない専用品だったため、1本なんと2万円!
万一転倒ともなれば、アルミタンクは45万円で、純正カウルも数十万円。
とにかく、維持には相当苦労していたようです。
CRF450Lも恐らくそうだと思いますが、こうしたバイクはある程度腕を身に着けた人が、さらに夢を求めて買うバイクだと思います。
今回ホンダは450ccモトクロッサーを公道に解き放ってくれました。
いろいろな意味で乗り手を選ぶプレミアムな存在なのはいささか残念に思うわけです。
しかし、国内4メーカーの口火を切ってこれを発売してくれたこと。
これについては高く評価されるべきではないかと思います。
今後はWR450F など他メーカーからもライバルが出てきて、450のビックモトが盛り上がってくれることを期待しています。
その時はもうちょっとお財布にやさしいバイクだといいですね。
CRF450L諸元
車名・型式 | ホンダ・2BL-PD11 | |||
---|---|---|---|---|
全長(mm) | 2,280 | |||
全幅(mm) | 825 | |||
全高(mm) | 1,240 | |||
軸距(mm) | 1,500 | |||
最低地上高(mm) | 299 | |||
シート高(mm) | 895 | |||
車両重量(kg) | 131 | |||
乗車定員(人) | 1 | |||
燃料消費率 (km/L) |
国土交通省届出値: 定地燃費値 (km/h) |
31.0(60)〈1名乗車時〉 | ||
WMTCモード値 (クラス) |
25.7(クラス 2)〈1名乗車時〉 | |||
最小回転半径(m) | 2.4 | |||
エンジン型式 | PD11E | |||
エンジン種類 | 水冷4ストロークOHC(ユニカム)4バルブ単気筒 | |||
総排気量(cm3) | 449 | |||
内径×行程(mm) | 96.0×62.1 | |||
圧縮比★ | 12.0 | |||
最高出力(kW[PS]/rpm) | 18[24]/7,500 | |||
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) | 32[3.3]/3,500 | |||
燃料供給装置形式 | 電子式〈電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)〉 | |||
使用燃料種類 | 無鉛プレミアムガソリン | |||
始動方式★ | セルフ式 | |||
点火装置形式★ | DC-CDI式 | |||
潤滑方式★ | 圧送飛沫併用式 | |||
燃料タンク容量(L) | 7.6 | |||
クラッチ形式★ | 湿式多板コイルスプリング式 | |||
変速機形式 | 常時噛合式6段リターン | |||
変速比 | 1速 | 2.357 | ||
2速 | 1.705 | |||
3速 | 1.300 | |||
4速 | 1.090 | |||
5速 | 0.916 | |||
6速 | 0.793 | |||
減速比(1次/2次) | 2.357/3.923 | |||
キャスター角(度) | 29° 30′ | |||
トレール量(mm) | 127 | |||
タイヤ | 前 | 80/100-21M/C 51P | ||
後 | 120/80-18M/C 62P | |||
ブレーキ形式 | 前 | 油圧式ディスク | ||
後 | 油圧式ディスク | |||
懸架方式 | 前 | テレスコピック式(倒立サス) | ||
後 | スイングアーム式(プロリンク) | |||
フレーム形式 | セミダブルクレードル |
諸元 参照元;本田技研工業株式会社